視聴率は地上波、ただし満足度はBS!


 

プロ野球への意識“人気のセ、実力のパ”

かつてのプロ野球には、“人気のセ、実力のパ”という言葉があった。観客が多く入り人気があるのはセリーグだが、本当に強いのはパリーグという受け止めだったのである。ところがNumberWebの「“人気のセ、実力のパ”、現在は?」という記事によれば、今もそう思っている人は32%に留まり、“人気のパ、実力もパ”という人が62%と、パリーグがセリーグを圧倒しているのが現状のようだ。

では地上波テレビとBSではどうだろうか。データニュース社が行っているテレビ視聴アンケート「テレビウォッチャー」(対象は地上波・BS共に3000人)調査を分析すると、どうやら“人気の地上波、満足度のBS”と言えそうな状況が浮かび上がってくる。

人気は圧倒的に地上波番組!

2015年度がスタートして最初の10日間(2015年3月30日~4月8日)では、視聴した人の数が最も多かった地上波番組は日テレ「DASHでイッテQ行列のできるしゃべくり日テレ系人気番組No.1決定戦2015春」で(4月5日夜7時~放送)、接触者は297人に上った。そして10位も日テレ「ぐるナイ春の京都ゴチ2時間!多部ちゃん大倉くんも高額自腹はイヤなんどすSP」(4月2日夜7時~)で、208人もの接触となった。

一方BSでは、1位はNHK朝の連続テレビ小説「まれ」(第4回:4月2日朝7時30分~)で、146人が見ていた。そして10位も「まれ」(第5回:4月2日朝7時30分~)で、視聴者数は113人だった。地上波トップ10の平均は243人だが、BSは125人と半分ほどの数となった。しかもBSのトップ10は「まれ」が7本、残り3本は全てプロ野球中継だった。BS局が独自に制作する番組では、27位に入ったBS-TBS「吉田類の酒場放浪記 江戸川橋・すみれ」がトップだが、視聴者数は45人に減ってしまう。どうやら“人気”(=視聴者数)では、BSは地上波に全く歯が立たないようだ。

満足度では逆転現象!!

ところが満足度で見ると、地上波とBSの位置づけは逆転する。20人以上が視聴した番組での満足度を比較してみよう。「テレビウォッチャー」では、自発的に見た番組について、5段階評価で満足度を記入してもらっている。これによると4以上の高評価となった番組は地上波では22本。20人以上が視聴した番組は460本あったので、約5%の番組に限られる。一方BSでは、123本中27本が4以上となった。22%と4倍以上の割合だ。もちろん3000人の母集団は異なるものなので単純比較は出来ないが、それにしても差は大きい。「地上波に見る番組がないのでBS」という声を時々聞くが、BSへの期待はなるほど高そうだ。

高満足度番組を見ると、確かに興味深い結果となっている。地上波のトップ10では、TBS「JIN-仁-」再放送が1・2・7位に入った。そしてテレビ東京の韓流ドラマ「トンイ」が3~5・10位だ。各局が制作した初回放送では、8位に入ったフジテレビ「キスマイ」(4月6日夜11時~)1本のみで、GP帯の番組は皆無だった。

BS150413視聴率の地上波、満足度の一方BSでは、1位はBS日テレの「それゆけアンパンマンくらぶ」(3月30日朝8時~)で、5位にも入っている。ちなみに当初10日間に放送されたのは8回分で、平均4.21と他の追随を許さない数字となった。視聴者の年層では、F1が全体のほぼ半分を占めている。幼子を持つ若いお母さんが高い評価を下していることが分かる。ちなみに裏にはNHKのEテレ「おかあさんといっしょ」があるが、視聴者数は地上波にも関わらず平均11人とBS「アンパンマン」の17人に大きく水を空けられている。さらに満足度でも、「おかあさんといっしょ」4.07に対して、「アンパンマン」は4.21と圧倒した。質量ともに上を行ったのである。

実は視聴者層のバランスも、両番組では大きな違いがある。共にF1が過半というのは同じだが、「アンパンマン」にはM1やM3も目立つ。アニメのストーリーは大人の視聴にも耐えられる。加えて体操などのコーナーがあるため、母子の満足度が高まり、結果として視聴者数と満足度を押し上げているようだ。BSの番組はたっぷり時間を投入できるものが多いが、これが功を奏していると言えよう。

BSが気を吐いているのは子供番組だけではない。紀行もの、動物もの、人気番組の再放送が高い満足度を叩き出している。NHKのBSプレミアム「世界ふれあい街歩き」(4月5日夜8時~)の満足度が4.35、同「あまちゃん」再放送(4月8日朝7時15分~)4.33、BS-TBS「日曜特番・我が家のワンちゃん!」(4月5日夜7時~)4.33、BSプレミアム「にっぽん縦断こころ旅」(3月31日朝7時45分~)4.32、BS1「ATPテニス マスターズ」(4月4日朝8時~)4.24と高評価番組が目白押しだ。

BSの営業戦略にイノベーションを!

BSは今年度から視聴率の測定を始めた。これまでは全国1000世帯を対象に、接触したチャンネルや番組を答えてもらっていた。ところがこれが機械式の測定となると、数字は必ず小さくなる。大半の番組は1%未満となり、スポンサーにどう説明するのか苦労の種が増えよう。

しかし“人気のセ、実力のパ”のように、視聴率ではなく満足度や、視聴実態を説明することで、単なる量ではない質の営業が可能なのではないか。先のBS「アンパンマン」では、幼子を抱える若い母親が随伴視聴している。しかも幼子を抱える若いパパやおじいちゃんもそこそこ混じっている。「一歳と四歳の子供が大好きで平日は毎日見ています」「体操が一緒にできたり英会話がとても子供のためになっておもしろかった」「孫が喜ぶ楽しい番組です」などの自由記述からは、テレビの前の家族の風景も見えて来る。量だけでは価値が小さくなってしまうが、質を上手に付加していくことで、適合するスポンサーから合意を取り付けるべきだろう。

BS-TBS「日曜特番・我が家のワンちゃん!」も視聴者層は万遍なく全層に渡っている。「犬好きにはたまりません」「内容が興味深く、終始集中して視聴することができました」など、F1やM1の特定層がしっかり入っている。BS日テレ「この春食べたい!ニッポン列島駅弁百景」も満足度が高いと同時に、「鉄道が好きなので面白かった」「電車旅行したくなった」など、男女年層と関係なく趣味趣向で一定層をとっていることがわかる。

生活者を世帯単位や、性別と年層だけで分けてマネタイズする時代はもう古い。趣味・趣向や傾向など、より属性を深掘りした上で一定数のマスをとれば、CM単価をもっと上げられるはずだ。今も数の論理が先行する地上波と異なり、BSには営業のイノベーションを期待したいものである。

【御礼】セミナー「ラジオから考える放送の近未来」のご報告


ご報告が遅くなり大変恐縮ですが、3/13(金)に、セミナー『ラジオから考える放送の近未来 』を開催させていただきました。
お陰様をもちまして、21名の方にご参加いただき、また活発なディスカッションが見られ有意義なセミナーとすることが出来ました。
参加者の皆様、またパネリストの豊田様、三浦様、藤様及び会場設営等ご協力をいただきました㈱インテージの皆様、ご協力ありがとうございました。

なお、5/15(金)には、セミナー『民放キー5局の生き残り戦略2015~メディア価値最大化に向けて~』を開催いたします。
現在参加受付を承っておりますので、ご希望の方は是非ご参加いただけますと幸いです。

5/15(金)開催セミナーの詳細はこちらをご参照ください。

 

(参考)3/13(金)に開催したセミナーの詳細情報は以下の通りです。

3/13(金)開催
次世代メディア研究所2015年セミナー 放送90周年記念シンポジウム

ラジオから考える放送の近未来

<開催日時>  2015年3月13日(金)午後1時~3時30分
 <会  場> インテージ秋葉原ビル・セミナールーム
(JR・地下鉄日比谷線秋葉原駅から徒歩3分・ 地下鉄銀座線末広町駅から4分)
 <パネリスト> 毎日放送 メディア戦略担当 取締役 豊田修二 氏
関西大学 社会学部メディア専攻 教授 三浦文夫 氏
エフエム東京 マルチメディア放送事業本部長 取締役 藤 勝之 氏
 <モデレーター> 次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司

<受講料>
法人会員契約をされた企業は、契約人数まで無料。
※本セミナーを含め、セミナーが年10回開催されます。
※法人会員契約の詳細については、こちらをご覧ください。

それ以外の方(一般参加の方)は、1名につき2万円。(税別)


<開催趣旨>

日本の放送は、まもなく開始90周年を迎える。1925年3月22日午前9時30分、東京・芝浦の小さなスタジオから流れた第一声が、その最初だった。その時マイクの前に立った後藤新平(当時東京放送総裁)は、スピーチの中で“放送事業の4つの機能”を挙げたが、その1つは「経済機能の敏活」だった。あれから90年、放送はインターネットとの関係を深め、技術的に進化すると共に、経済機能を飛躍的に高めようとしている。

当時から基本的な姿を変えていないAMラジオは、FM補完やradikoによる新配信システムを得て発展しようとしている。そこに今年からV-Lowという新システムが始まろうとしている。こうした動きは、近い将来に放送がどう進化を遂げることを示唆しているのか。例えばIP網に放送がのり、SNSなど新サービスと連携すると、どんな進化が期待できるのか。データを大容量でIP一斉同報送信することで、ビジネス的に放送事業はどう飛躍する可能性があるのか。その時、既存のAMラジオやテレビの事業者は、どう対応し得るのか。

当セミナーでは、“90年間の激変”の中で見えてきた放送事業の近未来を、実際に変化に直面する現場最前線に立つ3人の知見から議論し、対応策などを模索する。


<セミナーの概要>

Ⅰ.プレゼン:放送90年の変化の現場

【日本の放送の変遷】
日本では1925年にラジオ、1953年にテレビが始まり、“映像の世紀”と言われた20世紀後半に、テレビがメディアの王様となった。ところが1990年代に登場したインターネットが急発展を遂げ、2010年代には放送に大きな影響を与え始めている。その中で放送も大きく変化を遂げ始めているが、放送のトップバッターだったラジオこそがその先端にあり、放送の近未来を予測させる実績を見せ始めている。

【radikoの経験から考える放送の近未来】
ラジオの復権は日本文化の多様性の確保に繋がる。特にメディア受容を決定する時期である10代前半の若者にとって想像力をかきたてるラジオメディアの存在は重要である。そこで、タイムシフト、シェアラジオという新しいサービスによって、スマートフォンとSNSという現代の若者のメディア環境の中に入り込むことを目標に活動している。また、IPセントリックが進む中、スケーラビリティのあるradikoプラットフォームについて、その設立の経緯と設計思想についても言及する。

【V-Lowの可能性が拓く放送の近未来】
V-Lowはラジオでもテレビでもない第三の制度、すなわち「二値のデジタル情報を送る放送」と定義された。通信と放送の融合というとき、ネットを使って放送コンテンツを視聴させる、というアプローチが多い。V-Lowは逆で、放送の伝送路が通信上のコンテンツやサービスのコンベヤーとなるもの。FM多重放送は、アナログ放送の電波の隙間を利用して、デジタル情報を重畳送信していた。この重畳部分のみを抜き出して、大容量でIP一斉同報送信する業態ともいえる。ラジオのデジタル移行先と期待された時期もあり紆余曲折を経て、通信と放送融合のための法改正等の後、現在の在り方に至った。新しい「地域」の考え方を反映した制度ゆえ、地方創生に役立てたい。

【AMやテレビの立場から放送の近未来を考察する】
AMのFM補完局制度は長年の技術的課題の有効な解決策だが、AM局の将来に向けた経営課題は山積している。これまでradikoやCATVコミチャンなどの活用に取り組んできたが、そこで見えてきたものがある。今後の放送制度の在り方を含めて、今後のラジオを考えてみたい。

インターネット技術やモバイル機器の急激な進化により、メディアの業態は大きく変貌した。特に音楽ではレコードからCD、MDなどは主役の座を奪われ、ネット空間には天文学的な数の音声コンテンツが溢れる。映像コンテンツもしかり。放送の優位性や価値観は低下しているという声もあるが、放送マンの立場から放送の存在意義を考えてみたい。


Ⅱ.議論とQ&A

「AMのFM補完局制度」「radiko」「V-Low」という3つの変化について、それぞれ登場した原因・現在の動向・今後の効果などを確認する。

音声から映像へと発展した20世紀型マスメディアは、インターネットと出会いどんな影響を受け、今後どう進化し得るのか。ビジネス的にはどう発展可能なのかを展望する。

 

<プロフィール>

毎日放送 メディア戦略担当 取締役 豊田修二 氏
1973年毎日放送入社。ラジオ深夜番組やテレビ番組の制作を担当。テレビ編成を経て、96年CSチャンネルGAORAに出向、CS放送のデジタル化に従事。その後インターネット事業部長、メディア企画部長を歴任し、2005年メディア開発局局長。09年取締役メディア戦略室長。11年から現職。全国地上デジタル放送推進協議会総合推進部会構成員、総務省テレビ受信者支援センター特別委員会委員。

関西大学 社会学部メディア専攻 教授 三浦文夫 氏
慶應義塾大学経済学部卒。電通関西支社統合メディア局次長、同グローバル業務室長などを経て2012年より現職。IPサイマルラジオradikoを考案、実用化。民放連ラジオ再価値化研究グループ座長、スペースシャワーネットワーク社外取締役、アーティストコモンズ実証実験連絡会幹事、マルチスクリーン型放送研究会顧問、IPDCフォーラム監事。

エフエム東京 マルチメディア放送事業本部長 取締役 藤 勝之 氏
福岡県出身。1985年東京大学法学部卒、住友不動産株式会社入社。社長室、新規事業開発部等で新規事業開発担当。2001年エフエム東京入社。FMケータイのスキーム構築等を通じ、「通信と放送の融合」に取り組む。現在は取締役マルチメディア放送事業本部長。V-Lowを事業推進するために共同設立した持株会社であるBIC株式会社常務取締役、東京マルチメディア放送株式会社代表取締役も兼任。

次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司
1982年にNHK入局。制作現場では主にドキュメンタリー番組の制作を担当。97年に放送文化研究所に異動。98年日米ジャーナリスト交換プログラムで、アメリカの放送デジタル化の動向を視察。2003年放送総局解説委員室解説委員兼任(専門分野はIT・デジタル)。09年編成局編成センターへ異動。大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる~」を業界に先駆けて実施、他に各種番組のミニ動画をネット配信し、NHKのリーチ拡大を図る。12年にNHKスペシャル事務局へ移動し、放送前にミニ動画を配信して視聴率を上げる取組等を手掛けた。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

©2014次世代メディア研究所