放送90年に放送された『放送記念日特集』

放送90年に放送された『放送記念日特集』

野心的な企画だったが・・・

1925年3月22日午前9時30分、記念すべき日本初の放送は「JOAK、JOAK,こちらは東京放送局」で始まった。それから90年を経た今年のNHK放送記念日特集は、「放送90年 歴史をみつめ、未来を拓く」と題して、放送の将来を生で議論した。

番組の問題意識は、「(放送は)進化し続けるたびに、視聴者に感動をもって迎えられ」てきたが、「(ネットにより)自らの存在意義を問い直される」ようになった。今や人々は「放送局が設定した“時間”“空間”“費用”などの枠組みから解放され」コンテンツを楽しめる。「(放送が)未来にむけてどのような役割を果たせるのか、それを実現するためにはどうしたらいいのか」を探るということだった。

放送記念日特集は、誰に向けて放送するのかが悩ましい番組だ。メディアをテーマにしているために、一般視聴者にも分かり易いレベルに噛み砕くのか、業界関係者が感心する専門領域に踏み込むのか、判断に苦しむことが多いからである。筆者もテレビ50年と60年に制作を担当したことがある。他にもネットとテレビの関係を論ずる年に、求められてアドバイスをしたことがある。そして毎回放送終了後に、一般・業界ともにどっち付かずの中途半端な出来になっていなかったかと反省したものである。

その意味で今回は、一般視聴者の中でもネットを使い馴れた若年層に身近な話題を並べ、見易い出来だったと思う。特にテーマを4つ挙げ、どれを見たいか視聴者に問い、最も大勢が投票したものを見せるという構成は斬新だった。

 

紹介された事例も魅力的だが・・・

4つのテーマは以下の通り。「名場面から再発見 放送のチカラ」「進化するネット 放送はどう変わる」「社会がギクシャク 放送にできること」「若者に魅力あるメディア その秘密」。第1コーナーでは、4つの選択肢から先ず「進化するネット~」が選ばれた。そしてVTRでは、ニューヨークタイムズ、バズフィード、ロイターが取り上げられた。ニューヨークタイムズは従来最も重要視してきた新聞1面の記事を決める会議を、先月からウェブ版記事選択の場に変えた。もはや紙の1面は最優先課題ではなくなったというのである。そして2億人の読者を抱えるバズフィールドや世界最大の通信社ロイターの部分では、ユーザーの好みに合わせて内容を変えるようになっている状況を紹介した。

VTRを受けたスタジオ議論では、視聴者がどの程度の興味を持っているのかを指標化して示す工夫も見せた。「この議論、おもしろい?」という問いに対して、時々刻々視聴者が反応する仕掛けである。議論が始まるや否や「YES」が85%に跳ね上がり、関心の高さが示された。しかし徐々に評価は下がり、7分ほどで「NO」が4割を超す。するとチャイムがなり、議論が終了させられた。そして残り3つのテーマからどれが見たいか、改めて投票が始まった。

第2コーナーでトップとなったのは「社会がギクシャク~」。最初に流されたVTRでは、米国のTVチャンネルの論調が偏り、結果として国民の分断を深めているという状況が紹介された。具体的にFoxニュースとMSNBCの視聴層が、保守かリベラルかでかなり偏っているデータも示された。これを受けた議論も、当初から92%の視聴者が「面白い」と評価した。そしてスタジオ議論が7分を経過しても、7割以上の視聴者が「面白い」と評価し続けた。ところが無情にもチャイムが鳴り、番組は次へと展開した。

筆者はここで「???」となった。次の投票結果は予想通り「若者に魅力あるメディア~」だった。しかもVTR冒頭は、NHKと民放のオンデマンドサービスだ。またしても「???」。さらに今年1月のCESを舞台に、米国でも日本と同様に若者のテレビ離れを食い止めようという動きが始まっていると来た。ちょっと待ってほしい。米国では人気テレビ番組のネット配信は06年から盛んになっていた。日本のように今始まったことではない。ただし次に紹介されたネット上のニュースチャンネル「VICE」は確かに刺激的だ。最初からこの事例で始めた方が、宣伝色が出ず明らかに魅力的だった。

「VICE」のVTRを受け、スタジオ議論も冒頭から「面白い」が85%となった。しかもスタジオゲストは、「マスメディアは旧ソ連の百貨店」と手厳しい。上から目線でニュースを押し付けるのではなく、横の繋がりの中で一緒に作り上げていく時代と提言する。「視聴者が求めているのは生々しい現場」「日本の放送局はゲストが驚くような質問をぶつけていない」「批判を恐れ過ぎ」「作る側の多様性がない」など、議論は矢継ぎ早に課題を挙げ、変わり行くべき姿を示していた。

 

予定調和という限界

ところが今回も7分過ぎに、「面白い」が75%を占めているにもかかわらず、チャイムが鳴った。残ったテーマは「名場面から再発見 放送のチカラ」。あなたの放送10大事件アンケートを基に、投票結果を紹介するところからコーナーは始まった。

この演出で落胆したのは、テレビの“予定調和”性だ。テーマを4つ用意したので、予定通り4つきっちり紹介するという姿勢。視聴者が面白いと評価しているのに、議論を終了させて次に移るのは、本当に視聴者本位の姿勢だろうか。例えば「つまらない」が3分の1を超えるまでは、そのコーナーを続けるという選択もあり得たのではないだろうか。あるいは予定の時間が来たが、このまま議論を続けるか否かを視聴者に選んでもらう演出もあり得た。これこそが、議論の中で出ていた「上から目線」「押し付け」でない展開だろう。そうれば「(視聴者が求める)生々しい現場(=議論)」となったのではないだろうか。

さらに言えば、「こぼれたVTRは、番組終了後にネット配信」もありではないだろうか。今回の特番は続編がラジオで直後にあったので、「(4つ目のテーマは)予定を変更して第二部に回します」とやれば、ラジオへの流入も大きくなったはずだ。いずれにしても予定調和な展開を続けていたのでは、既にテレビ離れをしている若年層は言うに及ばず、「テレビがつまらない」と思い始めている人々を引き留めるのは難しそうだ。

以上を象徴するハプニングが、第二部の終了間際に起こった。司会者がまとめのコメントを言い始めた瞬間、ゲストの一人が「丸くおさめようとしている」と野次を飛ばしたのである。放送の未来を開くための議論で、ゲストから出た幾つかの提言。これらをどこまで採り入れ実行できるかどうかに、放送の未来がかかっているような気がする。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

©2014次世代メディア研究所