視聴率は地上波、ただし満足度はBS!


 

プロ野球への意識“人気のセ、実力のパ”

かつてのプロ野球には、“人気のセ、実力のパ”という言葉があった。観客が多く入り人気があるのはセリーグだが、本当に強いのはパリーグという受け止めだったのである。ところがNumberWebの「“人気のセ、実力のパ”、現在は?」という記事によれば、今もそう思っている人は32%に留まり、“人気のパ、実力もパ”という人が62%と、パリーグがセリーグを圧倒しているのが現状のようだ。

では地上波テレビとBSではどうだろうか。データニュース社が行っているテレビ視聴アンケート「テレビウォッチャー」(対象は地上波・BS共に3000人)調査を分析すると、どうやら“人気の地上波、満足度のBS”と言えそうな状況が浮かび上がってくる。

人気は圧倒的に地上波番組!

2015年度がスタートして最初の10日間(2015年3月30日~4月8日)では、視聴した人の数が最も多かった地上波番組は日テレ「DASHでイッテQ行列のできるしゃべくり日テレ系人気番組No.1決定戦2015春」で(4月5日夜7時~放送)、接触者は297人に上った。そして10位も日テレ「ぐるナイ春の京都ゴチ2時間!多部ちゃん大倉くんも高額自腹はイヤなんどすSP」(4月2日夜7時~)で、208人もの接触となった。

一方BSでは、1位はNHK朝の連続テレビ小説「まれ」(第4回:4月2日朝7時30分~)で、146人が見ていた。そして10位も「まれ」(第5回:4月2日朝7時30分~)で、視聴者数は113人だった。地上波トップ10の平均は243人だが、BSは125人と半分ほどの数となった。しかもBSのトップ10は「まれ」が7本、残り3本は全てプロ野球中継だった。BS局が独自に制作する番組では、27位に入ったBS-TBS「吉田類の酒場放浪記 江戸川橋・すみれ」がトップだが、視聴者数は45人に減ってしまう。どうやら“人気”(=視聴者数)では、BSは地上波に全く歯が立たないようだ。

満足度では逆転現象!!

ところが満足度で見ると、地上波とBSの位置づけは逆転する。20人以上が視聴した番組での満足度を比較してみよう。「テレビウォッチャー」では、自発的に見た番組について、5段階評価で満足度を記入してもらっている。これによると4以上の高評価となった番組は地上波では22本。20人以上が視聴した番組は460本あったので、約5%の番組に限られる。一方BSでは、123本中27本が4以上となった。22%と4倍以上の割合だ。もちろん3000人の母集団は異なるものなので単純比較は出来ないが、それにしても差は大きい。「地上波に見る番組がないのでBS」という声を時々聞くが、BSへの期待はなるほど高そうだ。

高満足度番組を見ると、確かに興味深い結果となっている。地上波のトップ10では、TBS「JIN-仁-」再放送が1・2・7位に入った。そしてテレビ東京の韓流ドラマ「トンイ」が3~5・10位だ。各局が制作した初回放送では、8位に入ったフジテレビ「キスマイ」(4月6日夜11時~)1本のみで、GP帯の番組は皆無だった。

BS150413視聴率の地上波、満足度の一方BSでは、1位はBS日テレの「それゆけアンパンマンくらぶ」(3月30日朝8時~)で、5位にも入っている。ちなみに当初10日間に放送されたのは8回分で、平均4.21と他の追随を許さない数字となった。視聴者の年層では、F1が全体のほぼ半分を占めている。幼子を持つ若いお母さんが高い評価を下していることが分かる。ちなみに裏にはNHKのEテレ「おかあさんといっしょ」があるが、視聴者数は地上波にも関わらず平均11人とBS「アンパンマン」の17人に大きく水を空けられている。さらに満足度でも、「おかあさんといっしょ」4.07に対して、「アンパンマン」は4.21と圧倒した。質量ともに上を行ったのである。

実は視聴者層のバランスも、両番組では大きな違いがある。共にF1が過半というのは同じだが、「アンパンマン」にはM1やM3も目立つ。アニメのストーリーは大人の視聴にも耐えられる。加えて体操などのコーナーがあるため、母子の満足度が高まり、結果として視聴者数と満足度を押し上げているようだ。BSの番組はたっぷり時間を投入できるものが多いが、これが功を奏していると言えよう。

BSが気を吐いているのは子供番組だけではない。紀行もの、動物もの、人気番組の再放送が高い満足度を叩き出している。NHKのBSプレミアム「世界ふれあい街歩き」(4月5日夜8時~)の満足度が4.35、同「あまちゃん」再放送(4月8日朝7時15分~)4.33、BS-TBS「日曜特番・我が家のワンちゃん!」(4月5日夜7時~)4.33、BSプレミアム「にっぽん縦断こころ旅」(3月31日朝7時45分~)4.32、BS1「ATPテニス マスターズ」(4月4日朝8時~)4.24と高評価番組が目白押しだ。

BSの営業戦略にイノベーションを!

BSは今年度から視聴率の測定を始めた。これまでは全国1000世帯を対象に、接触したチャンネルや番組を答えてもらっていた。ところがこれが機械式の測定となると、数字は必ず小さくなる。大半の番組は1%未満となり、スポンサーにどう説明するのか苦労の種が増えよう。

しかし“人気のセ、実力のパ”のように、視聴率ではなく満足度や、視聴実態を説明することで、単なる量ではない質の営業が可能なのではないか。先のBS「アンパンマン」では、幼子を抱える若い母親が随伴視聴している。しかも幼子を抱える若いパパやおじいちゃんもそこそこ混じっている。「一歳と四歳の子供が大好きで平日は毎日見ています」「体操が一緒にできたり英会話がとても子供のためになっておもしろかった」「孫が喜ぶ楽しい番組です」などの自由記述からは、テレビの前の家族の風景も見えて来る。量だけでは価値が小さくなってしまうが、質を上手に付加していくことで、適合するスポンサーから合意を取り付けるべきだろう。

BS-TBS「日曜特番・我が家のワンちゃん!」も視聴者層は万遍なく全層に渡っている。「犬好きにはたまりません」「内容が興味深く、終始集中して視聴することができました」など、F1やM1の特定層がしっかり入っている。BS日テレ「この春食べたい!ニッポン列島駅弁百景」も満足度が高いと同時に、「鉄道が好きなので面白かった」「電車旅行したくなった」など、男女年層と関係なく趣味趣向で一定層をとっていることがわかる。

生活者を世帯単位や、性別と年層だけで分けてマネタイズする時代はもう古い。趣味・趣向や傾向など、より属性を深掘りした上で一定数のマスをとれば、CM単価をもっと上げられるはずだ。今も数の論理が先行する地上波と異なり、BSには営業のイノベーションを期待したいものである。

【御礼】セミナー「ラジオから考える放送の近未来」のご報告


ご報告が遅くなり大変恐縮ですが、3/13(金)に、セミナー『ラジオから考える放送の近未来 』を開催させていただきました。
お陰様をもちまして、21名の方にご参加いただき、また活発なディスカッションが見られ有意義なセミナーとすることが出来ました。
参加者の皆様、またパネリストの豊田様、三浦様、藤様及び会場設営等ご協力をいただきました㈱インテージの皆様、ご協力ありがとうございました。

なお、5/15(金)には、セミナー『民放キー5局の生き残り戦略2015~メディア価値最大化に向けて~』を開催いたします。
現在参加受付を承っておりますので、ご希望の方は是非ご参加いただけますと幸いです。

5/15(金)開催セミナーの詳細はこちらをご参照ください。

 

(参考)3/13(金)に開催したセミナーの詳細情報は以下の通りです。

3/13(金)開催
次世代メディア研究所2015年セミナー 放送90周年記念シンポジウム

ラジオから考える放送の近未来

<開催日時>  2015年3月13日(金)午後1時~3時30分
 <会  場> インテージ秋葉原ビル・セミナールーム
(JR・地下鉄日比谷線秋葉原駅から徒歩3分・ 地下鉄銀座線末広町駅から4分)
 <パネリスト> 毎日放送 メディア戦略担当 取締役 豊田修二 氏
関西大学 社会学部メディア専攻 教授 三浦文夫 氏
エフエム東京 マルチメディア放送事業本部長 取締役 藤 勝之 氏
 <モデレーター> 次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司

<受講料>
法人会員契約をされた企業は、契約人数まで無料。
※本セミナーを含め、セミナーが年10回開催されます。
※法人会員契約の詳細については、こちらをご覧ください。

それ以外の方(一般参加の方)は、1名につき2万円。(税別)


<開催趣旨>

日本の放送は、まもなく開始90周年を迎える。1925年3月22日午前9時30分、東京・芝浦の小さなスタジオから流れた第一声が、その最初だった。その時マイクの前に立った後藤新平(当時東京放送総裁)は、スピーチの中で“放送事業の4つの機能”を挙げたが、その1つは「経済機能の敏活」だった。あれから90年、放送はインターネットとの関係を深め、技術的に進化すると共に、経済機能を飛躍的に高めようとしている。

当時から基本的な姿を変えていないAMラジオは、FM補完やradikoによる新配信システムを得て発展しようとしている。そこに今年からV-Lowという新システムが始まろうとしている。こうした動きは、近い将来に放送がどう進化を遂げることを示唆しているのか。例えばIP網に放送がのり、SNSなど新サービスと連携すると、どんな進化が期待できるのか。データを大容量でIP一斉同報送信することで、ビジネス的に放送事業はどう飛躍する可能性があるのか。その時、既存のAMラジオやテレビの事業者は、どう対応し得るのか。

当セミナーでは、“90年間の激変”の中で見えてきた放送事業の近未来を、実際に変化に直面する現場最前線に立つ3人の知見から議論し、対応策などを模索する。


<セミナーの概要>

Ⅰ.プレゼン:放送90年の変化の現場

【日本の放送の変遷】
日本では1925年にラジオ、1953年にテレビが始まり、“映像の世紀”と言われた20世紀後半に、テレビがメディアの王様となった。ところが1990年代に登場したインターネットが急発展を遂げ、2010年代には放送に大きな影響を与え始めている。その中で放送も大きく変化を遂げ始めているが、放送のトップバッターだったラジオこそがその先端にあり、放送の近未来を予測させる実績を見せ始めている。

【radikoの経験から考える放送の近未来】
ラジオの復権は日本文化の多様性の確保に繋がる。特にメディア受容を決定する時期である10代前半の若者にとって想像力をかきたてるラジオメディアの存在は重要である。そこで、タイムシフト、シェアラジオという新しいサービスによって、スマートフォンとSNSという現代の若者のメディア環境の中に入り込むことを目標に活動している。また、IPセントリックが進む中、スケーラビリティのあるradikoプラットフォームについて、その設立の経緯と設計思想についても言及する。

【V-Lowの可能性が拓く放送の近未来】
V-Lowはラジオでもテレビでもない第三の制度、すなわち「二値のデジタル情報を送る放送」と定義された。通信と放送の融合というとき、ネットを使って放送コンテンツを視聴させる、というアプローチが多い。V-Lowは逆で、放送の伝送路が通信上のコンテンツやサービスのコンベヤーとなるもの。FM多重放送は、アナログ放送の電波の隙間を利用して、デジタル情報を重畳送信していた。この重畳部分のみを抜き出して、大容量でIP一斉同報送信する業態ともいえる。ラジオのデジタル移行先と期待された時期もあり紆余曲折を経て、通信と放送融合のための法改正等の後、現在の在り方に至った。新しい「地域」の考え方を反映した制度ゆえ、地方創生に役立てたい。

【AMやテレビの立場から放送の近未来を考察する】
AMのFM補完局制度は長年の技術的課題の有効な解決策だが、AM局の将来に向けた経営課題は山積している。これまでradikoやCATVコミチャンなどの活用に取り組んできたが、そこで見えてきたものがある。今後の放送制度の在り方を含めて、今後のラジオを考えてみたい。

インターネット技術やモバイル機器の急激な進化により、メディアの業態は大きく変貌した。特に音楽ではレコードからCD、MDなどは主役の座を奪われ、ネット空間には天文学的な数の音声コンテンツが溢れる。映像コンテンツもしかり。放送の優位性や価値観は低下しているという声もあるが、放送マンの立場から放送の存在意義を考えてみたい。


Ⅱ.議論とQ&A

「AMのFM補完局制度」「radiko」「V-Low」という3つの変化について、それぞれ登場した原因・現在の動向・今後の効果などを確認する。

音声から映像へと発展した20世紀型マスメディアは、インターネットと出会いどんな影響を受け、今後どう進化し得るのか。ビジネス的にはどう発展可能なのかを展望する。

 

<プロフィール>

毎日放送 メディア戦略担当 取締役 豊田修二 氏
1973年毎日放送入社。ラジオ深夜番組やテレビ番組の制作を担当。テレビ編成を経て、96年CSチャンネルGAORAに出向、CS放送のデジタル化に従事。その後インターネット事業部長、メディア企画部長を歴任し、2005年メディア開発局局長。09年取締役メディア戦略室長。11年から現職。全国地上デジタル放送推進協議会総合推進部会構成員、総務省テレビ受信者支援センター特別委員会委員。

関西大学 社会学部メディア専攻 教授 三浦文夫 氏
慶應義塾大学経済学部卒。電通関西支社統合メディア局次長、同グローバル業務室長などを経て2012年より現職。IPサイマルラジオradikoを考案、実用化。民放連ラジオ再価値化研究グループ座長、スペースシャワーネットワーク社外取締役、アーティストコモンズ実証実験連絡会幹事、マルチスクリーン型放送研究会顧問、IPDCフォーラム監事。

エフエム東京 マルチメディア放送事業本部長 取締役 藤 勝之 氏
福岡県出身。1985年東京大学法学部卒、住友不動産株式会社入社。社長室、新規事業開発部等で新規事業開発担当。2001年エフエム東京入社。FMケータイのスキーム構築等を通じ、「通信と放送の融合」に取り組む。現在は取締役マルチメディア放送事業本部長。V-Lowを事業推進するために共同設立した持株会社であるBIC株式会社常務取締役、東京マルチメディア放送株式会社代表取締役も兼任。

次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司
1982年にNHK入局。制作現場では主にドキュメンタリー番組の制作を担当。97年に放送文化研究所に異動。98年日米ジャーナリスト交換プログラムで、アメリカの放送デジタル化の動向を視察。2003年放送総局解説委員室解説委員兼任(専門分野はIT・デジタル)。09年編成局編成センターへ異動。大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる~」を業界に先駆けて実施、他に各種番組のミニ動画をネット配信し、NHKのリーチ拡大を図る。12年にNHKスペシャル事務局へ移動し、放送前にミニ動画を配信して視聴率を上げる取組等を手掛けた。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

“放送記念日特集”にみる放送の課題


放送90年に放送された『放送記念日特集』

放送90年に放送された『放送記念日特集』

野心的な企画だったが・・・

1925年3月22日午前9時30分、記念すべき日本初の放送は「JOAK、JOAK,こちらは東京放送局」で始まった。それから90年を経た今年のNHK放送記念日特集は、「放送90年 歴史をみつめ、未来を拓く」と題して、放送の将来を生で議論した。

番組の問題意識は、「(放送は)進化し続けるたびに、視聴者に感動をもって迎えられ」てきたが、「(ネットにより)自らの存在意義を問い直される」ようになった。今や人々は「放送局が設定した“時間”“空間”“費用”などの枠組みから解放され」コンテンツを楽しめる。「(放送が)未来にむけてどのような役割を果たせるのか、それを実現するためにはどうしたらいいのか」を探るということだった。

放送記念日特集は、誰に向けて放送するのかが悩ましい番組だ。メディアをテーマにしているために、一般視聴者にも分かり易いレベルに噛み砕くのか、業界関係者が感心する専門領域に踏み込むのか、判断に苦しむことが多いからである。筆者もテレビ50年と60年に制作を担当したことがある。他にもネットとテレビの関係を論ずる年に、求められてアドバイスをしたことがある。そして毎回放送終了後に、一般・業界ともにどっち付かずの中途半端な出来になっていなかったかと反省したものである。

その意味で今回は、一般視聴者の中でもネットを使い馴れた若年層に身近な話題を並べ、見易い出来だったと思う。特にテーマを4つ挙げ、どれを見たいか視聴者に問い、最も大勢が投票したものを見せるという構成は斬新だった。

 

紹介された事例も魅力的だが・・・

4つのテーマは以下の通り。「名場面から再発見 放送のチカラ」「進化するネット 放送はどう変わる」「社会がギクシャク 放送にできること」「若者に魅力あるメディア その秘密」。第1コーナーでは、4つの選択肢から先ず「進化するネット~」が選ばれた。そしてVTRでは、ニューヨークタイムズ、バズフィード、ロイターが取り上げられた。ニューヨークタイムズは従来最も重要視してきた新聞1面の記事を決める会議を、先月からウェブ版記事選択の場に変えた。もはや紙の1面は最優先課題ではなくなったというのである。そして2億人の読者を抱えるバズフィールドや世界最大の通信社ロイターの部分では、ユーザーの好みに合わせて内容を変えるようになっている状況を紹介した。

VTRを受けたスタジオ議論では、視聴者がどの程度の興味を持っているのかを指標化して示す工夫も見せた。「この議論、おもしろい?」という問いに対して、時々刻々視聴者が反応する仕掛けである。議論が始まるや否や「YES」が85%に跳ね上がり、関心の高さが示された。しかし徐々に評価は下がり、7分ほどで「NO」が4割を超す。するとチャイムがなり、議論が終了させられた。そして残り3つのテーマからどれが見たいか、改めて投票が始まった。

第2コーナーでトップとなったのは「社会がギクシャク~」。最初に流されたVTRでは、米国のTVチャンネルの論調が偏り、結果として国民の分断を深めているという状況が紹介された。具体的にFoxニュースとMSNBCの視聴層が、保守かリベラルかでかなり偏っているデータも示された。これを受けた議論も、当初から92%の視聴者が「面白い」と評価した。そしてスタジオ議論が7分を経過しても、7割以上の視聴者が「面白い」と評価し続けた。ところが無情にもチャイムが鳴り、番組は次へと展開した。

筆者はここで「???」となった。次の投票結果は予想通り「若者に魅力あるメディア~」だった。しかもVTR冒頭は、NHKと民放のオンデマンドサービスだ。またしても「???」。さらに今年1月のCESを舞台に、米国でも日本と同様に若者のテレビ離れを食い止めようという動きが始まっていると来た。ちょっと待ってほしい。米国では人気テレビ番組のネット配信は06年から盛んになっていた。日本のように今始まったことではない。ただし次に紹介されたネット上のニュースチャンネル「VICE」は確かに刺激的だ。最初からこの事例で始めた方が、宣伝色が出ず明らかに魅力的だった。

「VICE」のVTRを受け、スタジオ議論も冒頭から「面白い」が85%となった。しかもスタジオゲストは、「マスメディアは旧ソ連の百貨店」と手厳しい。上から目線でニュースを押し付けるのではなく、横の繋がりの中で一緒に作り上げていく時代と提言する。「視聴者が求めているのは生々しい現場」「日本の放送局はゲストが驚くような質問をぶつけていない」「批判を恐れ過ぎ」「作る側の多様性がない」など、議論は矢継ぎ早に課題を挙げ、変わり行くべき姿を示していた。

 

予定調和という限界

ところが今回も7分過ぎに、「面白い」が75%を占めているにもかかわらず、チャイムが鳴った。残ったテーマは「名場面から再発見 放送のチカラ」。あなたの放送10大事件アンケートを基に、投票結果を紹介するところからコーナーは始まった。

この演出で落胆したのは、テレビの“予定調和”性だ。テーマを4つ用意したので、予定通り4つきっちり紹介するという姿勢。視聴者が面白いと評価しているのに、議論を終了させて次に移るのは、本当に視聴者本位の姿勢だろうか。例えば「つまらない」が3分の1を超えるまでは、そのコーナーを続けるという選択もあり得たのではないだろうか。あるいは予定の時間が来たが、このまま議論を続けるか否かを視聴者に選んでもらう演出もあり得た。これこそが、議論の中で出ていた「上から目線」「押し付け」でない展開だろう。そうれば「(視聴者が求める)生々しい現場(=議論)」となったのではないだろうか。

さらに言えば、「こぼれたVTRは、番組終了後にネット配信」もありではないだろうか。今回の特番は続編がラジオで直後にあったので、「(4つ目のテーマは)予定を変更して第二部に回します」とやれば、ラジオへの流入も大きくなったはずだ。いずれにしても予定調和な展開を続けていたのでは、既にテレビ離れをしている若年層は言うに及ばず、「テレビがつまらない」と思い始めている人々を引き留めるのは難しそうだ。

以上を象徴するハプニングが、第二部の終了間際に起こった。司会者がまとめのコメントを言い始めた瞬間、ゲストの一人が「丸くおさめようとしている」と野次を飛ばしたのである。放送の未来を開くための議論で、ゲストから出た幾つかの提言。これらをどこまで採り入れ実行できるかどうかに、放送の未来がかかっているような気がする。

【御礼】セミナー『どの局も直ぐ着手できる放送外収入 ~ローカル民放の増収作戦2015~』大盛況ありがとうございました


2015年3月6日、セミナー『どの局も直ぐ着手できる放送外収入 ~ローカル民放の増収作戦2015~を開催させていただきました。
お陰様をもちまして、23名の方にご参加いただき、多くの方から質疑応答が飛び交う、活気あるセミナーとすることが出来ました。
参加者の皆様、またパネリストの平山様、大森様、及び会場設営等ご協力をいただきました㈱インテージの皆様、ご協力ありがとうございました。

なお、3月13日(金)には、セミナー『ラジオから考える放送の近未来』を開催いたします。
日程が迫っておりますが、参加受付はまだ承っておりますので、ご希望の方は是非ご参加いただけますと幸いです。

セミナーの詳細はこちらをご参照ください。

 

(参考)先日開催いたしました、3月6日セミナーの詳細情報は以下の通りです。

3/6(金)開催
次世代メディア研究所2015年セミナー 開設記念シンポジウム
どの局も直ぐ着手できる放送外収入 ~ローカル民放の増収作戦2015~

<開催日時>  2015年3月6日(金)午後2時~5時
 <会  場> インテージ秋葉原ビル・セミナールーム
(JR・地下鉄日比谷線秋葉原駅から徒歩3分・ 地下鉄銀座線末広町駅から4分)
 <パネリスト> 仙台放送ニュービジネス開発局 局長 平山準一 氏
ストリートメディア株式会社 社長 大森洋三 氏
 <モデレーター> 次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司

<受講料>
法人会員契約をされた企業は、契約人数まで無料。
※今回の開設記念シンポジウム以外に、セミナーが年10回開催されます。
※法人会員契約の詳細については、こちらをご覧ください。

それ以外の方(一般参加の方)は、1名につき2万円。(税別)

<開催趣旨>
ローカル民放の広告収入は、少子高齢化と人口減少、地域経済の地盤沈下などで厳しい状況にある。さらに今後を展望すると、録画再生やVODなどタイムシフト視聴の増加で、リアルタイムの視聴率を前提とした広告収入は、一段と厳しい状況も危惧されている。

そんな中、活気のあるローカル局がある。エリア内に留まらず、コンテンツを全国・海外展開をして高収入を得ている局、養殖など放送外収入の方が大きい局などだ。ただしこうした成功例は、地域性・局の成り立ち、グループ企業のあり方の違いなどで、すぐには他のローカル局の参考にならない例も多い。

そこで当セミナーでは、「どの局も直ぐ着手できる放送外収入」と銘打って、大半のローカル局が比較的簡単に模倣できる成功例を紹介し、実際に実践するためのノウハウを伝授する。他に動き出したばかりの“ローカル番組を基にした増収作戦”の最前線などもお伝えする。
<セミナーの概要>

Ⅰ.プレゼン:成功例・その背景と勝因

【キー局/ローカル局の実態】
東京キー局では過去10年で広告収入以外の事業収入の比率が格段に大きくなった。厳しい環境を見越した安定化策だった。これに加えて去年からは、本業の放送と密接な関係のある新ビジネスが重視されつつある。番組の見逃し配信などだ。これについては、ローカル局も大きな関心を寄せ、実際に動き始めた局も少なくない。放送外収入を巡る最前線を概観する。

【テレビの信頼がビジネスの礎~仙台放送の事例から~】
キー局から送られてくる番組だけが頼りのローカル局は、リーマンショックなどで広告収入が激減すると、経営は一挙に行き詰る。しかし仙台放送は、売上の4%ほどを新規ビジネスで稼いでおり、広告収入の上下を一定程度まで吸収できるようになっている。新規事業は、「ドクターサーチみやぎ」「弁護士サーチ」など公共性の高い情報を、テレビの信頼感を前提に提供する内容。さらに「食材王国みやぎ 地産地消市場」は、ネット上だけでなく、リアル店舗を展開することで賑わっている。地域活性化に貢献するローカル局ならではの新規ビジネスと言えよう。他に大学と連携して役に立つコンテンツを制作し、放送外でも収益を得ている。どのローカル局でも直ぐにできる放送外収入増の取り組みを、費用と収益の関係も交えて解説する。

【お茶の間だけのテレビから、消費現場でのテレビへ~岡山放送での取り組みを中心として~】
オムニチャネルを中心とした流通革命の中、店頭に置ける消費を高揚させる情報の重要性が日々増している。米国に於いては、店頭、街中、タクシーの車内と情報発信の場が日々新しく創出されており、その担い手の多くが米国のテレビ局となっている。日本に於いても、デジタルサイネージを利活用した、消費向上のビジネスモデルがスタートし始め、テレビ局との連動も始められた。ストリートメディアでは、去年5月に岡山放送と組んで放送でCMを流す他、実際の店舗に設置されたモニターに販売促進を狙った関連映像を流し、売上向上に寄与し始めた。この事例の紹介と共に、ローカル局が直ぐに出来る放送外収入増の取組案を、幾つか提案して行く。
Ⅱ.議論とQ&A
「テレビの信頼を前提とした新ビジネス」「テレビとデジタルサイネージの連携」という2つの具体策について、他局が導入する際のノウハウ・留意点、さらなる発展のためのアイデアは何かを議論する。

他に、ローカル番組をネット配信などに活用することで、HTB「水曜どうでしょう」の世界にどう近づくのか、可能性と課題を洗い出す。

 

<プロフィール>

仙台放送ニュービジネス開発局 局長 平山準一 氏
1958年3月に上智大学 理工学部 電気電子工学科卒。同年4月にソニーテクトロニクス入社。平成2年10月に仙台放送入社。その後、技術系部署の後、東北情報システム(IBMとの合資会社)出向。営業部を経験の上、7年前にデジタル事業部長。2年前にニュービジネス開発局長を拝命、現在に至る。

ストリートメディア株式会社 社長 大森洋三 氏
1986年にヤマハ株式会社へ入社し、海外事業&製品マーケティングを担当。96年にデジタルCS放送のJICに入社。2000年にウェザーニューズ社入社し、販売事業本部長を務める。03年にサイバード入社。メディア戦略部長、インキュベーション室室長を歴任。05年インデックスホールディングス取締役就任。そして08年にストリートメディアを設立し、代表取締役社長に就任。経済産業省e空間検討委委員、東京コンテンツマーケットコーディネーター、石川県新書府事業選考委員、福岡市デジタルサイネージ協議会委員なども務める。

次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司
1982年にNHK入局。制作現場では主にドキュメンタリー番組の制作を担当。97年に放送文化研究所に異動。98年日米ジャーナリスト交換プログラムで、アメリカの放送デジタル化の動向を視察。2003年放送総局解説委員室解説委員兼任(専門分野はIT・デジタル)。09年編成局編成センターへ異動。大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる~」を業界に先駆けて実施、他に各種番組のミニ動画をネット配信し、NHKのリーチ拡大を図る。12年にNHKスペシャル事務局へ移動し、放送前にミニ動画を配信して視聴率を上げる取組等を手掛けた。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

“ネットフリックス脅威論”に7つの誤解


150302ネットフリックスネットフリックス脅威論の概要

米国時間の2月4日、映像配信大手ネットフリックスが日本市場へ今秋進出すると発表した。その後2月20日、東芝からは同サービスに国内で初めて対応するテレビが発売された。パナソニックも3月上旬から発売予定だ。これらを契機に日本のネット上には、関連記事が頻繁に登場するようになった。主な記事のタイトルを列挙すると以下の通り。

テレビ震撼!「ネットフリックス上陸」の衝撃(2/5)

 今年秋、上陸決定!Netflixは黒船なのか?(2/5)

 Netflix急成長の一翼を担ったのは、メタデータだ!(2/9)

 Netflixは日本の映像ビジネスを変えるのか?(2/12)

 テレビ各社、米動画配信対応型を投入 「ネットフリックス」(2/12)

 “テレビ画面“を奪い合う、戦争が始まる

ネットフリックスの衝撃。テレビ局の猶予はあと5年だ(2/12)

 動画配信のNetflixが日本上陸、TV局主導のコンテンツ市場は変わるのか?(2/13)

 会員5000万人超・米動画配信「ネットフリックス」 

日本上陸で今度こそ「テレビ崩壊」か?(2/13)

見えてきた「Netflix」の国内サービス――対応テレビも着々(2/20)

Netflixボタンが日本のテレビを変える?–Netflix×東芝「REGZA J10」(2/20)

テレビがテレビじゃなくなるかもしれない状況にテレビはさしかかっている(2/23)

上陸!「ネットフリックス」は何がすごいのか(2/27)

 

米国での映像配信事業者トップの日本上陸だ。「黒船到来!」「日本のテレビの将来は大きく変わる」、いや「テレビ崩壊だ」と喧しい。だが「ちょっと待った!」と筆者は言いたい。コラムニストだった天野祐吉氏は生前、「コメンテイターは、他人と異なる意見を述べなければいけない。多様性の担保が重要」と言っていた。特に「状況を一言で一変させる野次の力が大切」という発言が印象に残っている。先達にはとても及ばないし、“状況を一言で一変”させるのは難しいが、このところのネットフリックス脅威論の大合唱に、ちょっぴり掉さしておきたい。敢えて言う。今の論調には誤解が7つある。

 

1:米国でのヒットが即日本でのヒットとなるのか?

1953年に始まった日本のテレビ放送では、米国制作の番組がたくさん流された。「スーパーマン」「名犬ラッシー」「わんぱくフリッパー」「奥様は魔女」などは、筆者も夢中になった作品だ。ところが日本では、次第に米国製番組が消えて行く。GP帯でのシリーズ番組としては、1977年の「ルーツ」が最後だった。米国製では次第に視聴率がとれなくなり、日本の番組の方が当たるようになったからである。つまり日本人は、日本人が登場する日本の番組を見たがったのである。

それでも映画の世界では、ハリウッド映画がその後も邦画を圧倒した。このアメリカ映画やドラマシリーズのパワーを背景に、日本上陸を計った放送システムがあった。1997年に放送を開始した衛星放送サービス「ディレクTV」だ。シュワルツネッガーが大統領候補に扮したテレビCMで最も強調したのは、「アメリカン・エンターテインメント」だった。この後、同システムのCMは「目指す未来が違う」と言ってのけた。しかし加入者は伸び悩み、最後は「おとうチャンネル・おかあチャンネル」とキャッチフレーズが迷走した末に、2000年にサービスは終了している。挑戦はわずか3年、アメリカのヒット作中心の試みは、日本では通用しなかったのである。

アメリカのエンターテインメントが、日本では退潮な事実を示す現象は他にもある。日本の映画館で上映される邦画・洋画比率の推移だ。1986年以降はずっと洋画が邦画を上回った。もちろん、その立役者はハリウッド映画だ。「ハリー・ポッター」「モンスターズ・インク」「スター・ウォーズ」「ロード・オブ・ザ・リング」などが並んだ2002年に至っては、邦画vs洋画の興行収入比率は27%対73%と洋画の圧勝だ。ところが2008年に23年ぶりに邦画が洋画を上回ると、以降はずっと邦画優位が続いている。「海猿」「テルマエ・ロマエ」「踊る大捜査線」とフジテレビの3本が全上映作品の中でトップ3を独占した2012年に至っては、邦画vs洋画の興行収入比率は64%対36%と邦画が圧倒した。

洋画の退潮は、テレビの世界でも同様だ。テレビ朝日が1967年に放送を始めた「日曜洋画劇場」は、淀川長治氏の名調子と決まり文句「さよなら、さよなら、さよなら」で視聴率の高い長寿番組となった。ところが黄金時代と言えるのは90年代までで、次第に洋画では高視聴率がとれなくなってきた。そして12年にはスポーツ中継・スペシャルドラマ・バラエティのスペシャル版で休止が増え、遂に13年春改定で「日曜洋画劇場」の枠名が変更され、「日曜エンターテインメント」となった。つまり映画以外の大型ドラマ・バラエティが同居するようになり、映画を流す時だけ「日曜エンタ・日曜洋画劇場」とされた。テレ朝のこの判断で、日本のテレビGP帯での洋画の定時放送はなくなったのである。

VODの世界でも、米国で08年にサービスを始め、11年に日本向けを始めたhuluがある。米国のテレビ局や映画会社が共同で設立し、コンテンツが豊富だったために、米国で急成長した。ところが日本では思うように展開しなかった。当初の加入料は月額1480円だったが、12年には980円に値下げされた。さらに14年4月には日本テレビに業務が継承され、米国資本は撤退を余儀なくされた。ディレクTVの時と同じ3年の命だった。

以上の通り、地上波テレビ・有料多チャンネル放送・映画・VODのどの分野でも、アメリカのヒット・コンテンツだけでは日本での事業は継続していない。持続可能なビジネスの鍵は、“アメリカのエンターテインメント”ではなく、“日本人が好むコンテンツ”が握っているのである。

 

2:大きく異なる日米のメディア環境!

米国の成功が日本で通じないのは、メディア環境が大きく異なる側面もある。例えばケーブルテレビの多チャンネルサービスは6~7割の普及率となったが、日本では2割に届かない。米国では地上波テレビが届かないエリアがたくさんあったこと、国土が広大で地域性に大きな違いがあったこと、多様な人種や言語が存在していたことなどが要因だ。そこまでの多様性が日本にはなく、地上波テレビが全国津々浦々にまで届いておりニーズが少なかったのである。しかも80年代までの米国では、地上波は3大ネットワークしかなかった。かたや日本では、NHKと民放で6チャンネルと充実しており、多チャンネル化が進む理由が薄弱だったのである。

衛星多チャンネル放送もしかり。米国の初期の衛星放送は、地上波もCATVも届かない農村地域をカバーするため、農協が団体契約をするなどして、最初から100万世帯ほどを獲得してサービスが始まっている。さらに多様性を前提にCATVより多いチャンネル数にニーズが存在し、3割ほどまで普及した。いっぽう日本の衛星多チャンネル放送は、1割にも届かずに去年あたりから加入減が顕著になっている。地上波テレビが圧倒的に見られている現実を前に、大きなビジネスには育たなかったのである。

ではネットフリックスはどうだろうか。元々レンタルビデオ店が近所に少ない米国では、DVDの宅配レンタル事業として加入者を急増させた。やがてVODへと移行し、14年末には米国内で約3500万もの加入者を獲得している。夕方プライムタイム帯での全米全ダウンストリームトラフィックの30~35%を占めるほどに成長していたのである。ただしその前提には、1か月に70~100ドルもするCATVの加入料の高さがあった。ネットフリックスなら月額8.99ドルから。米国ではCATVの10分の1ぐらいの割安感だが、日本のCATVは3000円程度だ。しかも加入者は2割もいない。大多数は無料の地上波テレビで満足している。つまりネットフリックスが割安という状況にないのである。

 

3:独自コンテンツで快進撃となるのか?

ネットフリックスには40以上のオリジナルコンテンツがあるという。その代表格が「ハウス・オブ・カード 野望の階段」で、2013年にエミー賞の3部門を受賞した。さらに今年は独自コンテンツを300時間ほど制作し、うち3分の1が4K制作になるという。これらの多くを日本で配信するから脅威というのである。

しかし項目1で詳述したように、米国でのヒットが即日本でのヒットとはならない。「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は既に日本で配信されたが、該当事業者のビジネスが飛躍したという話は聞いていない。有料の世界では2014年、WOWOWの「MOZU」と全米オープンでの錦織選手の活躍が圧倒的な力を発揮した。2コンテンツ併せて15万件ほどの新規加入をWOWOWにもたらし、総加入者数が開局以来最高に達した。やはり日本のコンテンツが力を発揮したのである。

そのWOWOWは、2003年より独自番組「ドラマW」を制作してきた。これらの中から単発/連続ドラマ約60作品が、今年1月から順次huluで配信され始めた。加入者ゼロから今秋スタートするネットフリックスのライバルで、既に日本で100万ほどの加入者を擁すると目されている。ネットフリックスも日本製の独自コンテンツを一定程度用意する予定と聞くが、WOWOWからの約60作品を質量ともに凌駕するのは容易ではない。

さらにコンテンツの威力については、地上波テレビの番組が圧倒的という話は既にした。その見逃しサービスが、今日現在15~20番組ほどGYAOで行われている。こちらは無料のサービスだ。ネットフリックスがサービスを開始する今秋には、20~30番組とラインナップが充実している可能性が高い。定額見放題とは言え有料のネットフリックスが、質量ともに充実する無料のGYAOにどこまで対抗できるのか、甚だ疑問と言わざるを得ない。

 

4:TVメーカー抱き込み作戦は奏功するか?

先月20日に東芝が、そして今月上旬にはパナソニックがネットフリックス対応テレビを市場に投入し始めている。これらの端末では、リモコンに同サービスの専用ボタンがある。これを押すだけでサービスが立ち上がるため、ユーザーにとって利便性は極めて高いという。「必ず使ってもらえるサービスになる」と同社の担当者もコメントしている。しかし、これで本当に盤石なのだろうか。筆者には納得の行かない点が残る。

まず東芝はレグザの「J10」シリーズを2月20日から投入した。しかしレグザには、「Z10X」「Z9X」「J10X」「J9X」など9シリーズもある。今回の対応テレビはその内の1シリーズに過ぎない。パナソニックも3月上旬から対応するビエラ「CS650」を投入する。しかし同社にも40型以上を持つシリーズは、「AX900」「AX800」「AX700」「AS650」など8シリーズある。やはり対応機種はごく一部に過ぎない。

他にソニーやシャープなど他メーカーのシリーズも含めると、ネットフリックス対応テレビはごく一部であることがわかる。ちなみにJEITA(電子情報技術産業協会)の予測では、15年における薄型テレビの出荷台数予測は696万台。そして16~17年は700万代が続き、18年に漸く800万を超える。そのごく一部がネットフリックス対応テレビで、その2~3割が実際にネットに接続すると仮定すると、同サービスを利用できる家庭は毎年数十万程度が増えるだけとなりかねない。その中から何割に実際にお金を払ってもらえるかというビジネスである。ネット上の記事にあったような「テレビ局の猶予はあと5年」とか、「今度こそ“テレビ崩壊”か?」という表現が、如何に大袈裟かが分かる。

 

5:4K対応は決定的か?

同サービスは前述の通り、「今年は独自コンテンツを300時間ほど制作し、うち3分の1が4K制作になる」ことを強みとしている。しかし4Kテレビは40型代以上の大型テレビにしか機能がのっていないのが現状だ。そのサイズは台数ベースで言うと3割強しかない。その一部が4K対応になっているに過ぎず、例えば14年末時点でも全テレビの中で4K対応は1割に届いていない。その中の一部がネット接続をする現実から推測すると、4Kを売りにしても対象となるテレビは当面年間50万台以下となる。

しかもネットフリックスのボタンをリモコンに設置した東芝「J10」もパナソニック「CS650」も、実は4K対応ではない。共に高画質と謳っているが2Kだ。ネットフリックスが4Kを武器としながら、対応テレビが4Kでないという戦術のちぐはぐさは、どう受け止めたら良いのだろうか。ネット上の記事の多くはテレビの専門家が執筆しているはずだが、こうした矛盾はなぜ見過ごされたのか。いずれにしても、これでは4Kが決定的とならないことだけは確かだろう。

 

6:優れたデータ分析技術はどこまで通用するのか?

ネットフリックスの優位性に言及する際、米国での実績や資本規模の大きさの他に、優れたデータ分析能力を挙げる記事が多い。一つはユーザーの視聴データや番組の人気などのビックデータを解析し、制作に反映すること。エミー賞を受賞した「ハウス・オブ・カード 野望の階段」は、正にビックデータ解析の賜物という人もいた。そしてもう1点は、レコメンド技術だ。同サービスの動画視聴は、現状75%がオススメ機能からと言われている。これを以って、ユーザーの利用状況を解析した結果つくられたアルゴリズムが極めて優れており、日本でも切り札になるという見方である。

しかし2つの視点について、いずれも筆者は疑問を禁じ得ない。まず前者だが、もしビッグデータ解析でヒット作が作れるのなら、ネットフリックス制作の番組は全てエミー賞級となる。ところが実際には、1作が受賞したのは事実だが、他が軒並みビッグヒットになったわけではない。つまり、受賞した後の後知恵として、ビッグデータ解析が持ち出されている気がしてならない。実際に同社の担当者は、「(データ解析はしているものの)一番大事なのはクリエーターの創造力」と認めている。当然のことながら、自動的に名作が出来上がってしまうほど、映像作品の世界は単純ではない。

また後者については、日米の違いを持ち出すべきだと感じている。ネットフリックスが創り上げたアルゴリズムは、加入者が1000万単位となった後に、全加入者の視聴行動を数年かけて分析した末に完成させたものである。ところが日本人の嗜好は米国人とは同じでない。そして日本の加入者はゼロから始まり、100万人に到達するのに数年を要する可能性がある。つまり、日本人に最適なレコメンドは、しばらく機能しない可能性がある。やはり「テレビ局の猶予はあと5年」「今度こそ“テレビ崩壊”か?」という性急な表現は、思慮の浅い結論と言わざるを得ないのである。

 

7:VODがテレビ視聴を席巻するのか?

ネットフリックスが恐れるに足らない7つ目の根拠は、所詮はVODサービスだという点だ。米国内では約3500万もの加入者を獲得したが、CATVを解約した人は1000万に遠く及ばない。コードカッティングが起こっているのは事実だが、雪崩のように放送サービスの解約者が出ているわけではない。その最大の理由は、リアルタイムでテレビを見るニーズは依然大きいという点である。

去年11月の「Inter BEE2014」での米ニールセン担当者のプレゼンに、こんなデータがあった。「放送コンテンツは6~7割がライブ視聴、タイムシフト視聴が25~30%、そしてVODが3~9%」。多チャンネルやマルチメディアが進んだ米国でも、やはりリアルタイムでテレビを見るニーズは大きく、VODよりは録画再生が数倍上を言っているのが現実だ。VODのユーザーインターフェイスは、まだまだテレビやDVRのシンプルさには追い付いていない証左であろう。そしてレコメンドが如何に優れていようと、約1億人が熱狂するスーパーボウルのような爆発的な吸引力は、VODにはないのである。

 

結論:慌てず騒がず、実態を正しく認識しよう!

7つの側面から「ネットフリックス脅威論」に異を唱えて来た。最後にもう1点、この種の論を立てる場合の統計的な落とし穴に触れておきたい。複数の記事が同サービスの実力をこう評していた。「1ユーザーあたり、月平均35~40時間視聴されている。1日あたり1時間強で、これは米国のテレビ視聴率の25%に相当する」というのである。

しかし、これには論のすり替えがある。「1日あたり1時間強」なのは、約3500万の加入者の平均値。米国は約1億2千万世帯なので、全世帯のテレビ視聴時間が1日あたり4時間とすると、ネットフリックスの視聴率は、「米国全世帯平均」では、25%ではなく8%となる。「テレビ局の猶予はあと5年」「今度こそ“テレビ崩壊”か?」という性急な表現をしたがる人々の、バイアスのかかった統計マジックと言えよう。

筆者もマスメディアの中で長年表現活動を続けて来た一人で、表現者が陥り勝ちなバイアスについては自らも経験している。まずネタに出会ったジャーナリストや評論家は、自分の扱うネタが重大事であって欲しいという心理が無意識に働く。これが現象を事実より大きく見せ勝ちとなる。いわゆるセンセーショナリズムが表現者に芽生える所以である。その結果、例えば新メディア・新サービスの普及について「100万も~」と書き飛ばしがちだ。ところが世帯数約1億2千万の米国なら、「100万」は普及率にして1%未満で、とても「~も」と表現すべき量ではない。禁欲的に位置付ける習性を自らに厳しく課さない限り、表現者はセンセーショナリズムに堕す危険と隣り合わせなのである。

ネットフリックスの日本での成否については、冷静に考えれば耐えられる累損は200~300億円、特別な理由があっても400億円ぐらいだろう。これまで日本で挑戦したコンテンツ・サービスの米国資本は、3年前後で撤退を余儀なくされているが、その際の累損はほぼこの辺りとなる。ここから考えられる同社が制作する日本の独自コンテンツは、残念ながら民放キー局やWOWOWの番組が既に配信されている日本のVOD市場で、どこまで有効か疑問となる。世界で約6000万世帯におよぶ市場向けに日本のコンテンツを調達したいのなら、同社の日本上陸の意味は納得できる。日本のコンテンツ調達が主目的で、うまく行ったら市場の一角にも食い込みたい。この辺りが本音で、実際には強かで柔軟な事業計画を立てている気がするが如何だろうか。

いずれにしても改めていう。「テレビ局の猶予はあと5年」「今度こそ“テレビ崩壊”」と評するほど、ネットフリックスに力量があるとは到底認められない。

ローカル番組はネットで強い!?


「情熱大陸」エンディング「情熱大陸」が熱い!

1953年2月1日、日本で最初のテレビ放送が始まった。それから62年目となる今月1日、テレビ画面に画期的な一文が流れた。毎日放送(MBS)「情熱大陸」のエンディングに、「GYAO!で無料見逃し配信実施!」のテロップが表示されたのである。今までも「自局サイトでVOD実施中」などとテレビ局が表現することはあった。ところが資本関係のないネット企業の名を挙げ視聴誘導を計ったのは、筆者の記憶では初めだ。

01年に政府IT戦略本部の議論で、「ハード・ソフト分離論」が登場してから以降、テレビ局のネット企業に対するアレルギーは強烈だった。05年にホリエモンがフジテレビ買収を仕掛け、楽天がTBSを狙ったため、両者の関係は険悪となった。ところが06年に竹中総務相(当時)による私的懇談会の議論を経て、関係に変化が生まれた。そして雪解けは、ここ数年で急速に進んだ。

その象徴は、去年1月から日本テレビがドラマやバラエティなど、夜の人気番組を見逃し配信し始めたことだ。去年10月からはTBS,今年1月からはフジテレビも追随している。キー局だけではなく、ローカル局も番組のネット配信に乗り出している。冒頭のMBS「情熱大陸」もその1つ。当番組が本当に傑出したのは、実はネットでの視聴回数だった。その比較は、動画配信サイトGYAO!で可能になる。配信初日から万単位の視聴回数を誇り、4日目の2月5日には視聴回数5万一千と、同サイトで配信される全3万以上の動画の中で3位にランクインした。しかも2月2日から8日までの一週間に配信された全コンテンツの中でも12位を誇った。同時期に配信されていたキー局のどの見逃し配信より多く見られたのである。

12位 MBS「情熱大陸」(2/1放送分)
21位 TBS「流星ワゴン」(3話)
33位 フ ジ「ゴーストライター」(4話)
44位 フ ジ「残念な夫。」(4話)
45位 日テレ「有吉反省会」(2/1放送分)
48位 TBS[まっしろ](4話)
50位 日テレ「しゃべくり007」(2/2放送分)
57位 TBS「美しき罠~残花繚乱~」(5話)
66位 日テレ「今夜くらべてみました」(2/3放送分)
74位 日テレ「学校のカイダン」(4話)
86位 TBS「マツコの知らない世界」(2/3放送分)

如何だろうか。ローカル局が奇をてらうことなく愚直に作ったドキュメンタリーが、キー局の人気ドラマやバラエティをブッチ切っての12位である。数字をとりに行った娯楽番組を圧倒した点は、称賛に値すると言えよう。この回の「情熱大陸」は、30代半ばでデビューした演歌界のニュープリンス福田こうへいが主人公だった。遅咲きだが中高年に元気を配る福田の魅力と、好感のもてる素直な番組の作りが、若年層が多く集うネットでも人気を博したのである。

新たなマネタイズの時代

筆者は昨年暮れ、日本民間放送連盟の井上弘会長にインタビューをする機会を得た。氏はTBS時代に、数々の改革に着手してきた経営者だ。例えば2000年の分社化と、それに伴う人件費の見直し。07年には国内でも珍しい年金減額訴訟で和解をまとめた。さらに08年には赤坂サカスをオープンさせ、放送外収入を大幅に増やしている。いずれもTBSの経営安定化に貢献したが、この間のTBSの視聴率低下は甚だしく、トップとしての毀誉褒貶も激しい人物と言えよう。

その井上氏は昨秋、「インターネットを使ったテレビ番組の見逃し視聴サービス」の検討を民放連内で仕掛けた。必ずしもキー5局が同じ方向を向いていない中での突然の言及で、業界はハチの巣をつついたように大騒ぎとなった。それでも氏は、「民放連でも利害がからむ面があり、難しいことは承知しているが、メリット・デメリットを含めて検討し、少しでも前へ進めるよう(民放連の)理事に理解を求めた」と断固たる決意を示した。

多くの困難が予想される取組に井上氏が踏み出した背景には、テレビのHUT(総視聴率)低下がある。タイムシフト視聴へと流れる人が増え、テレビをライブで見る人が減っている。日本では両者の視聴実態についてデータがあまりないが、米国では状況が数値化されている。昨年11月に「Inter BEE 2014」で講演した米ニールセン社のエリック・ソロモン氏によると、放送番組は録画再生が25~30%、ネットでのオンデマンド視聴が3~9%を占め、ライブ視聴は6~7割程度に減っているという。日米では環境の違いがあるものの、リアルタイム視聴の指標となる視聴率を通貨にしている以上、日本のテレビ界も曲がり角に差し掛かり始めたことは間違いない。筆者が直接確認した井上会長の認識も、「残念ながら、録画視聴によるCMスキップの回避は難しい」「ならば違う方法でマネタイズしなくてはならない」「その一つの回答が、ネットにおける見逃し視聴」だった。幾つかのキー局が見逃しサービスに乗り出したのも、こうした考え方が前提にある。

ピンチはチャンス!

ローカル局から見ると、今起こっていることは二重のピンチだ。録画再生が増え生視聴が減ることによる広告収入減が一つ。もう一つは、キー局が自らネット配信することで、放送時に電波料などで預かれたお零れが、ネット配信では全くなくなる点である。いよいよ自立の道を模索しないと、生き残れない時代になってきたのである。

そこでローカル局もネット配信に乗り出した。去年8月に福岡放送(FBS)が始めた「発見らくちゃく!」の配信を初め、RKB毎日放送「TEEN!TEEN!」、テレビ大阪(OTV)「和風総本家」など、ネットの活用が活発になっている。視聴回数もMBS「情熱大陸」と同様、FBS「発見らくちゃく!」が系列キー局日テレの「有吉反省会」を上回った。OTV「和風総本家」に至っては、ネットでブレークしたため大阪地区の視聴率が上昇したという認識すらある。

もちろん「ローカル番組だからネットで強い」とは限らない。ただキー局GP帯番組のように視聴率のために最大公約数を狙う番組と比べ、ローカル番組はターゲットが明確な場合が多い。制作に情熱が漲ることもある。さらに客観的には、知名度が低いためにネット上では新鮮なコンテンツとなり、実際に独自性があるとバズなどを介してブレークする場合がある。筆者がNHK時代に手掛けた番組のミニ動画配信でも、NHKスペシャルや大河ドラマのような大番組より、ETVで視聴率が1%に満たない弱小番組が気を吐く現象が見られた。テレビ放送とネット配信では磁場が異なり、意外な逆転劇が起こる。その意味では、ローカル局にもチャンスがある。

ただし課題がないわけではない。キー局が直面しているように、番組のネット配信をどうマネタイズするかだ。日テレは今、15秒CM1視聴あたり5円の収入を確保できるか否かで奮闘している。仮にローカル番組のネット配信で、3円の15秒CM4本を配信できれば、1視聴あたり12円の収入が発生する。「情熱大陸」にその条件を当てはめると、数百万円の収入があったことになる。ローカル局から見ると望外の放送外収入となるが、課題は1本3円という営業力があるか否かだ。

以上がこの1年で急速に進んだ、テレビ番組のネット配信の舞台裏である。筆者はテレビ業界に32年身を置き、ローカル局勤務も経験した。地方にいるために意外なネタに遭遇し、面白い番組に行き着くこともある。こうしたダイナミズムがあるが故に、ローカル局の存在理由があると考える。客観的には取り巻く環境は厳しくなる一方だが、だからこそ知恵がものをいう局面も出て来ている。10年ほど前には、北海道テレビ(HTB)「水曜どうでしょう」という成功例もあった。ローカル局が自らの知恵と努力で、新たな可能性を切り拓くことを願ってやまない。

TV局・リーダーたちの言葉


偉大さとは、方向を与2015年 キー5局はどこへえること

今週多くの企業ではトップが社員を集め、新年のあいさつを行った。TV局などメディア企業も例外ではない。ニーチェ曰く「偉大さとは、方向を与えることだ。どんな河も自分自身によって大きく豊かなのではなく、多くの支流を受け入れて進むことによってそうなるのである。あらゆる偉大なる精神についても同じことがいえる。肝心なのは、のちに多くの支流が辿ることになる方向を示すことである」。組織の長たる者の年頭のあいさつは、方向性を示すという意味で一聴に値するケースが多い。TV局リーダーの言葉も、今週の新聞・業界誌・各局ホームページに多数紹介されたが、その中から各局の状況と重ね合わせると含蓄の深い言葉を拾い集めてみた。

まずは2014年に3年ぶりに三冠王に返り咲いた日本テレビの大久保好男社長。2014年の年間世帯視聴率(13年12月30日~13年12月28日)で、3年ぶりに三冠王に返り咲いたことについては、HP上の「年頭のご挨拶」で「多くの視聴者の皆様に当社の番組を支持していただき、心より感謝申し上げます」と型どおり。ところが局内の新年式典では、視聴率の勢いに乗り「通期放送収入総額もトップを」と檄を飛ばした。

実は同局は、94年から10年連続三冠王だったにも関わらず、当時は広告収入でフジテレビに遅れをとり続けた。そこで世帯視聴率だけではなく、10代と随伴視聴する40代前後の層を狙う番組を開発し、広告単価を上げる努力をしてきた。14年度はようやく、その悲願が達成する可能性が出て来ていたのである。

同時に大久保社長は、「好調な今が衰退の始まり」と、慢心を諌めることも忘れなかった。「現状維持は衰退の一歩」「得意な時こそ謙虚に新しい目標に挑戦して欲しい」「生き残りには時代の流れに適応して自らを変え進化していくこと」「イノベーションは自己否定から始まる」「“打倒日テレ”だ」。一昨年に開局60年を迎えた同局は、「日テレは、もう一度、テレビをゼロから」と宣言していたが、この間の方向性は一貫していると言えよう。これらの言葉の通り、社内の多くの支流が本流に合流すれば、同局にはしばらく死角がない。

捲土重来に向かう言葉

12~13年と日テレと激しく首位争いを演じたテレビ朝日の早河洋会長兼CEOは、社内およびグループ向けの挨拶をHPに掲載した。同局の視聴率は14年春と夏に失速し、首位日テレに大きく水を開けられる原因となったが、秋改編以降やや持ち直した。早河会長も「10月クールと年末年始の奮闘で復調のきっかけをつかんだ」とまずは前向きな姿勢を示した。ただし今の実力ではまだ不十分で、「視聴率トップ争いへのヒントは、私達が創り上げてきた最近のヒットコンテンツの中にある」と5例を挙げた。

筆頭は昨年夏に公開して83億円の大ヒットとなった出資映画「STAND BY ME ドラえもん」。VFXの専門家と組み「3DCGという今日的な新しい表現方法に挑戦」したことが勝因と分析。「才能あふれる創造的なパートナーとの新たな協業が不可欠」とした。

次が15年間で240話近くが放送され、全平均視聴率16%台を記録している「相棒」。長く視聴率を落とさず、評価され続ける要因として、俳優・シナリオライター・制作スタッフによる「ものづくりネットワーク」が重要と強調した。

3つ目が第3弾全11話平均22.9%という驚異的な視聴率をたたき出した「ドクターX~外科医・大門未知子~」。主演の米倉涼子・彼女と長く仕事をしてきた内山プロデューサー・シナリオライター中園ミホの3人の女性の和が大きかったという。以上3例から、「ヒットコンテンツを生み出すには一定の時間がかかる」「経営トップから現場の人間までの一体感が必要」と総括した。

4点目はスポーツ。「世界水泳」「サッカーAFCアジアカップ」「フィギュアスケートなど、同局は今世紀に入って「放送権獲得にかなりの経営資源を投下」してきた。「迅速な作戦が奏功した」と、ここは自画自賛。

そして最後がバラエティだが、「この10年、テレビ朝日を元気にしたバラエティ番組がここにきて元気をうしなっています」と、弱体化を認める所から入った。しかし反転攻勢の兆しも出て来ており、「スタッフは成功体験を思い起こし、ヒット番組、ヒットコンテンツを創り出す反発力を必ずや示してくれるものと確信」と奮起を促した。

首位争いから脱落し始めた瞬間に、三冠王直前まで駆け上がった直近10年を振り返り、「俳優・タレントおよび所属事務所との信頼関係」「ものづくりネットワーク」「権利ホルダーとの友好関係」「時間と予算をかけた中・長期戦略」「失敗のリスクを恐れない継続と挑戦」と、5つの重要ポイントを改めて言語化した。職員の再起を促すには、具体的かつ的確な言葉だったと言えよう。

やや対照的だったのが、14年の視聴率がG帯・P帯・全日のいずれもキー5局の中で3位に終わったフジテレビ。長期的にみると06年頃から率が徐々に下がり始め、改革に乗り出したにも関わらず、12年以降に逆に下落速度が速まっていた。さらに年始週(14年12月29日~15年1月4日)では、視聴率調査開始以来初のGP帯最下位を喫してしまった。新年全体会議に臨んだ亀山千広社長は、「今年は視聴率の話は止めよう思っていたが、この結果を見たらせざるを得ない」と急遽方針を変えた状況を業界紙は伝えている。

「視聴者の心が捉えきれていないことが全て」とまずは全否定から入った。その上で「最近よく『社長の考えがよく分からない』という声が聞かれる。逆に私は『あなた達は会社をどうしたいのか?』と聞きたい」と、テレ朝早河会長が指摘した「経営トップから現場の人間までの一体感」が失われている現実を露呈する話となった。亀山社長も年末年始のタイムテーブルを見た際に疑問があったようだが、発言を控えたらしい。「意見を言うことから逃げていた」「社長であろうと意見を言うべきだった」「その代わり私にも意見を行って欲しい」と続けたのである。いまだ混迷の渦中と言わざるを得ないが、今後どう巻き返しを図るのか。「フジに元気がないと困る」という声を、他局幹部からはよく耳にするが、業界全体の活気を増すためにも、同局の捲土重来を期待したいものだ。

下位2局の明暗

フジと同じように、視聴率低迷で苦しんでいるのはTBSだ。06~09年に大きく数字を落とし、以降は低迷のまま横ばい状態が続いていた。ところが14年はさらなる下落が始まった印象だ。G帯・P帯・全日のいずれも、前年比で0.5ポイント前後も成績を落としている。その1年が改まった年頭の石原俊爾社長あいさつは、テレ朝と同じ様に、HPに掲載された。ただしテレ朝早河会長と違い、具体的な対応策が示されることはなかった。

2015年を「戦後70年、TBS60年という節目の年」とした上で、「私たち報道機関が『何を、どう伝えて行くのか』、今年は、その責任、使命が今まで以上に問われる年」と断じた。節目だからそうなのか、もう少し説明を聞きたいところだが根拠はない。また、「コンテンツの強化が喫緊の課題であることは言うまでもありません」としながらも、具体的な対策は示されなかった。週前半のバラエティ番組はやや回復しているとし、「これでドラマが安定してくれば、いい勝負ができる状況に来ていると思います。もうひと踏ん張りです、頑張っていきましょう」と檄を飛ばすに留まった。支流たる各職員を一つの方向に向かせるためには、もっと強力な求心力が求められる。

いっぽう視聴率の絶対値こそキー5局中最も低く万年5位のテレビ東京だが、島田昌幸HD社長の新年祝賀会での挨拶には含蓄があった。開局50周年にあたる2014年の取組に手応えがあり局の評価が上昇していると評価し、16年の社屋移転と統合マスター運用開始に向け15年が重要な年と位置付け、重要課題を具体的に3点挙げた。「HD組織の見直しと機能強化」「映像技術の革新・配信の高度化にグループをあげて取り組む」「技術革新・新ビジネス開発の投資を賄う利益を出せる経営体質の構築」だ。干支の「未」はくだものが熟し切っていない状態を示すという薀蓄を示し、「発展途上の我々にはぴったりの年。『あの年こそクループの跳躍台になった年だった』と言える年にしたい」と締めくくった。

実はテレ東は、08~11年に視聴率を落としていた。ところが12年以降じわじわ数字を上げ、14年も前年比で全日・G帯・P帯はいずれも0.3ポイント上乗せした。その意味で島田社長の「局の評価が上昇している」は頷ける。しかも12~14年の上昇気流を、新技術・新サービスで確固たるものにするという方向性は、職員にとって納得性の高いスピーチと言えよう。

以上がキー5局のリーダーたちの新年の挨拶だ。テレビ局は表現者集団であり、そのトップは表現について一定の見識を持ち、かつ高い経営手腕が求められる。そんな彼らの1年最初の言葉が、各表現者(支流)にどう受け入れられ、実際に組織を活性化させ(本流へと束ね)、視聴率や広告収入などの実績に如何に結び付くのか(偉大な本流になるのか)。サッカー試合後の各プレイヤーの採点表のように、彼らの方向性がどの程度的確だったのか、1年後に評価してみたいものである。各局のこの1年の奮闘を注視したい。

年末年始フジ惨敗というチャンス!


視聴率が振るわなかったフジ「ワンピース」再放送

視聴率が振るわなかったフジ「ワンピース」再放送

再放送で低視聴率

1月5日は仕事始め。魚市場の初セリ、小売業の初売り、東証での大発会など、夕方のニュースは今年最初のイベントで大賑わいだった。ところがこの日のスポーツ紙では、華やいだ雰囲気とは逆に、暗いニュースが紹介された。フジが年末年始の番組で大惨敗したというのである。「戦わずに惨敗・・・フジの淋しい年越し」と題された記事は、「大みそかにまさかのアニメ再放送で勝負に出たフジテレビ『ワンピース』が、視聴率3.3%で惨敗してしまった」と始まった(日刊スポーツ)。「打倒紅白の番組を“作らない”という、後ろ向きなチャレンジ」「ダイナミックな企画力で他局をリードした時代を知る者としては複雑な思い」など、記事では手厳しい文言が並んだ。

確かに大みそかと元旦のフジは、視聴率が芳しくなかった。アニメの再放送3.3%は、42.2%の紅白に対抗した日テレ「笑ってはいけない」18.7%(1部)の約6分の1だ。TBS「KYOKUGEN」9.0%(3部)と比べても約3分の1、テレ朝「くりぃむVS林修」5.9%(2部)や、テレ東恒例の「第47回年忘れ日本の歌」5.8%にもダブルスコア近く離された。「振り向けばテレ東」ならぬ、“仰ぎ見るテレ東・振り向けばEテレ”だったのである。

近年のフジにとって、大みそかは鬼門のようだ。2010年以降では、3年連続4%台、そして去年の「祝!2020東京決定SP」に至っては2.0%。そして今回のアニメの再放送だ。「もはや勝てない戦に金をかけないとう発想」「“作らない”という選択はかっこ悪く見える」など、記事では厳しい批判が続いた。

ちなみに元旦の夕方6~9時の「オールハワイナイトフジ2015」も4.4%、夜9時~11時半の「鶴瓶のうるさすぎる新年会2015」も3.6%と、在京キー局番組の中で最下位だった。前者は往年の「オールナイトフジ」的なタイトルだが、ここ数年の同局は続編頼みが目立つ。12年秋改編では、90年代に一世を風靡した「料理の鉄人」のリバイバル「アイアンシェフ」があった。90年代末からの大ヒット「ショムニ」のリバイバル「ショムニ2013」が一昨年、01年に全話が30%を超えた「HERO」の続編「HERO」は14年に同局で最も当ったドラマだった。しかし記事は「保守的なチャレンジ」とやはり辛口が続いた。

番組制作というビジネスの視点

しかし冷静に考えると、再放送や続編はそんなに批判されることだろうか。まず全体を俯瞰すると、関東地区では15年ほどでNHKとキー5局の合計視聴率(G帯)は15%ほどパイが縮小している。その中でNHKが一定の数字を獲っているとしたら、民放の獲り分は当然厳しくなっているわけで、経営判断として安全策をとることがそんなに批判されるべきことだろうか。

実は再放送については、「北の国から」が2003年12月16日からの夜帯で5夜連続再放送されたことがある。83~02年までの全ドラマの中から、ハイビジョン撮影されていた分をまとめ、地デジ開始に併せた放送だった。視聴率は13%ほどで飛びっきり高くはなかったが、フジの幹部によると赤字続きだった同ドラマは、この放送で初めて通算で黒字になったという。再放送は制作費が不要だ。権利処理コストと13%の広告収入を比べれば、利益が十分あったと推測される。

明くる2004年正月にも、前年夏クールに放送された「ウォーターボーイズ」が一挙再放送された。この時は演じた役者の何人かが登場してMC的な役割を演ずるという工夫があった。これも一定の数字を獲り、放送としては成功だったと聞いている。

つまり問われるべきは、惨敗であり、再放送とか続編という放送の仕方ではない。視聴率的に華々しくなくとも、収支で見て意味のある結果であれば良しとすべきではないだろうか。それが右肩上がりではなくなった放送業界の、次世代を見越した新しい戦略ではないだろうか。実は当時、フジの幹部がちょっと憚られる表現で、テレビビジネスの課題を指摘していた。曰く「現状は処女ばかりの女郎屋となっているが、二次利用なども含めて勝つ体質に変える必要がある」。売上高至上主義ではなく、利益重視の姿勢を言っていたのである。

今回の年末年始なら、権利処理が可能であれば、01年「HERO」と14年「HERO」の比較文化論的な見せ方は出来なかっただろうか。例えば主人公・久利生検事の14年の変化や、事務官を演じた松たか子と北川恵子を徹底比較するトリビア特番だ。冬クールでヒットした「信長協奏曲」だったら、主要登場人物の視点から各話の重要シーンを振り返るスタジオ番組だって可能な気がする。そもそも同ドラマは今年12月に映画化が予定されている。仮に視聴率が4~5%に終わっても、TBS「MOZU」が有料放送のWOWOW加入者を大量に生み出したように、「信長協奏曲」フリークを数百万人生み出せれば、映画の方で大きな利益につながる。

テレビ番組の批評として、再放送や続編の多用を批判する気持ちは分からなくはない。しかしテレビ局をとりまく環境は80~90年代とは大きく異なる。米国だってテレビ番組は「半年分を制作し、残り半年は再放送」することで、テレビビジネスを最適化させてきたではないか。90年代に筆者が訪ねたカリフォルニアの某独立系テレビ局は、夜7~9時の3時間に、同じ1時間ニュースを3回、生で繰り返していた。キャスターはライブでコメントするが、大半のニュースVTRは使い回しだった。こうすることで、放送1回の視聴率4~5%の番組が3回で15%近くに達し、ペイしていたのである。

ネット・SNS・デジタル録画機が普及し、ダブルスクリーン視聴やタイムシフト視聴の生活者がかなり多くなってきた。テレビの位置づけは、アナログ時代とは一変したと覚悟すべきだ。その時代に合致した番組制作や放送の仕方を、テレビ局も工夫しなければ生き残れない時代。「紅白」や「笑ってはいけない」のように従来と変わらない作り方の番組も必要だが、全6チャンネルがそのままである必要はない。その意味で、フジの年末年始惨敗は、時代に合った新たな制作・編成の仕方を考えるきっかけになったのではないだろうか。不発を指弾する外野の声に惑わされずに、苦境を奇貨として新たな文化を切り拓いてもらいたいものである。現代は「楽しくなければテレビじゃない」だけでは通用しなくなった。「新しくなければテレビじゃない」の姿勢が求められている気がしてならない。

 

紅白タイムシフト視聴顛末記


視聴率42.2%の意味

大晦日に放送された第65回NHK紅白歌合戦は、第2部の視聴率が42.2%だった(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と、2日の各マスコミに取り上げられた。「前年より2.3ポイント下がったが、7年連続40%台を維持した」という表現が目立ったが、この表層的な報道って本当にどれだけ意味があるのだろうか。

そもそも標本数600の関東地区では、視聴率40%の時の統計学的な誤差は±4.0%だ。「前年より2.3㌽下がった」というのは、完全に誤差の範囲なのである。つまり紅白第2部は38%ぐらいから46%程だったのである。また「7年連続40%台を維持」と言うが、08年以来40.8%・41.7%・41.6%・42.5%・44.5%・42.2%だったから、確実に「40%台を維持」したのは2013年だけ。ちなみに06~07年は39.8%・39.5%だったので、40%台だった可能性もある。

さらに言えば、発表されている視聴率は第2部の平均視聴率だ。つまり午後9時から11時44分までの毎分視聴率の合計164回の平均値に過ぎない。直観的に言えばその2時間45分の間、ずっとNHK総合をつけていた家庭は20%台。残りは見たい歌手のパートのみNHKで、他の時間は他局に回していた可能性がある。しかもその2時間45分間に1分でも紅白にチャンネルを合わせた家は、7割前後だった可能性がある。つまり紅白のつまみ食い視聴世帯は5割ほどに上る。ザッピングやフリッピングしながら紅白を見た、あるいは正月の準備や初詣などの用事があり、一部の時間しかテレビをつけていなかった家庭だ。しかもこうした多忙(?)な方々には、今や便利なデジタル録画機もある。録画再生で見たい部分をじっくり見た家庭も2~3割はあったのではないだろうか。かくいう筆者宅には全録(8chを一週間分全て収録可能なデジタル録画機)があり、大晦日の紅白については全て録画再生で、リアルタイム視聴は皆無だった。

たった一例だが、録画再生だと紅白はこんな見方になる!

実は我が家のテレビ視聴は9割以上がタイムシフトだ。家族構成は筆者が50代、妻は40代、長女10歳、長男6歳。末っ子といえども、テレビ視聴の大半はタイムシフト。「列車戦隊トッキュウジャー」「妖怪ウォッチ」「はなかっぱ」などが主な再生対象だ。小学5年の娘も「名曲アルバム」などのミニ番組を、編成表に頼らず検索で見ることが多い。必ずリアルタイムで見るのは毎朝7時30分からの朝ドラだけ。しかもこれはBSなので、もし我が家が視聴率モニターなら、地上波局の視聴率には全く寄与しない家庭となる。

さて紅白歌合戦が放送された大晦日だが、何かと準備の遅い拙宅では8時過ぎにようやく一家団欒がスタート。おもむろにリモコンを取り出し、まずは7時15分の紅白オープニングから再生し始めた。ところが冒頭はタモリと黒柳徹子のゆったりトーク。始まって30秒で、子供達は「つまらない」と非難轟々、日テレ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しSP」にタイムシフト・ザッピング。ところがこちらのオープニングは、約30秒に14~15カットが積み重ねられる超ハイテンポ。小学生にも40~50代にも、あまりに強い刺激のオンパレードに、やはり30秒で食傷気味。全録を備え選択肢が増えた家庭では、生視聴の時以上にオープニングに対する選球眼は厳しくなっているのである。

大晦日の2大番組に躓いた我が家は、ここでEPGと睨めっこ。するとEテレで「地球ドラマチック エトワールをめざして~オペラ座バレエ学校の子どもたち~」が目に飛び込んだ。バレエを習っているお姉ちゃんが俄かに色めき立ち、彼女の強い主張で視聴率では限りなく※印のEテレへ。ところが末っ子はここで脱落、NITENDO3DSへと“テレビ離れ”。残り3人で30分ほど専念視聴した結果、この番組はDVD「パリ・オペラ座 バレエ学校の妖精たち~エトワールを夢見て~」と似ているとなり、ここで再び紅白に戻ることになる。時すでに9時近くだった。

ここで紅白に戻ったが、再生速度は基本が20倍速。最初の対戦のHKT48やSexy Zoneでもノーマル再生になることなく、最初に普通に見たのは7時30分頃の審査員紹介。これはもっぱら筆者の業界的関心の成せる業だった。

で結局、本格的に内容を見たのは直後の妖怪ウォッチ第一部。子供たちの要望によるものだが、彼らは「妖怪体操第一」を夢中で踊り、テンションは一挙に急上昇。しかもリクエストにお応えして、この部分は2回も再生する羽目になった。以降、順速で見たのは「マッサン」の3人が登場するクリス・ハートの「糸」、羽生結弦のスケート映像が出る徳永英明「花は咲く」、そして妖怪ウォッチが再び登場する嵐の「A・RA・SHI」。ここまでで末子は疲れてしまい、筆者が彼を寝かしつける役・・・結果は一緒に爆睡。妻も大掃除などで疲れたようで、まもなくダウン。結局お姉ちゃんは、Eテレ「地球ドラマチック」に戻って、全部を見てから寝たそうである。

大晦日当日はここまでだが、紅白のタイムシフトはここで終わりではない。翌朝、ネットで紅白の評判を調べた筆者は、続きを録画再生し始めた。チェックしたのは、第2部冒頭の「花子とアン」の紅白用ドラマ・吉高由里子のリアクション・綾香「いじいろ」・中園美穂インタビュー、ダルビッシュが髪を刈られたゴールデンボンバー「女々しくて」、ニューヨークからのイディナ・メンゼルと神田沙也加の「生まれてはじめて」「Let It Go」、薬師丸ひろ子「Woman“Wの悲劇”より」、中島みゆき「麦の唄」、美輪明宏「愛の賛歌」、ネット上で最も意見が飛び交ったサザンオールスターズ「ピースとハイライト」「東京VICTORY」、そしてオオトリの松田聖子「あなたに逢いたくて~Missing You~」。

それぞれネットには様々な意見・感想が寄せられていた。全録があると、こうした意見の中の気になる部分は、全て自分の目で確かめることができる。特にサザンオールスターズ桑田佳祐のチョビ髭や、歌われた2曲の意味などは、リアルタイム視聴では背景や意図が忖度できずに感動し損なったかも知れない。今回の紅白は「歌おう。おおみそかは全員参加で!」がキャッチフレーズになっていたが、ネット上の多くの意見を受けてタイムシフト視聴することで、この言葉の意味が深まったと感じた次第である。

莫大なお金と手間暇と才能を投入して制作する紅白歌合戦。全てを見ると4時間半は長すぎるが、見るべきパートは確かに少なくない。それらを的確に網羅できる録画再生視聴の素晴らしさを、紅白は改めて思い知らせてくれた番組だったのである。

蛇足ながら元旦の午後、筆者はTBS「KYOKUGEN2014 豪華アスリートが挑む極限対決7連発」を録画再生した。真剣勝負が幾つも登場する当番組は、同じ録画再生でも順速で見る部分が多く存分に楽しめた。視聴率こそ一桁に終わったが、録画再生向きの番組だったと感じている。TBSはドラマもそうだが、こうした見応えのある番組が少なくなく、結果としてリアルタイムではなく、タイムシフト視聴に流れる率が高い気がする。この辺りは改めて分析してみたい。

2014年は日本テレビの1年だった!


日テレ三冠放送という枠組み内で絶好調

2015年が始まった。メディア界はこの1年、どう変化するだろうか?新しい1年を展望する前に、まずは去年を振り返っておきたい。

2014年は日本テレビが主役の1年だった。去年末、同社ホームページに2014年の年間三冠王を獲ったことが発表された。「おかげさまで日本テレビは、2014年 年間視聴率(13年12月30日~14年12月28日)で、全日・プライム・ゴールデンの全3部門NO.1を獲得いたしました」。ビデオリサーチの関東地区世帯視聴率で、全日(6-24)が8.4%(13年は8.0%で1位)、プライム(19-23)12.5%(13年11.9%2位)、ゴールデン(19-22)12.6%(13年12.0%2位)だったという。

勝因として同社が挙げたのが、「この1年はそれぞれのレギュラー番組が本当に頑張りました」「番組を楽しんでもらうにはどうしたらよいのか、それぞれの番組が真剣に考え努力した結果が、日本テレビを楽しんでいただく習慣となり、多くの皆様からありがたいご支持をいただきました」だった。実はこの発言は、筆者が業界誌『B-maga』12月号に掲載した小杉善信専務取締役のインタビューに詳細が記されていた。「視聴者の中に体内タイムテーブルが自然と生まれることが望ましい」と題したインタビューの要点を紹介すると、以下のようになる。

日テレの強さの秘訣については、「ここ2、3年で言えば、タイムテーブル、レギュラー番組を大事にしてきたことが要因」「1週間の基本番組表は、いわば視聴者と広告主に対する“お約束”です。このお約束がきちんと行われているからだと思います」という。他局の編成は近年、期末期首以外でも2~3時間の特別番組が多くなっていたが、このやり方は短期的に数字をとっても長期的にはマイナスに働く。日テレはかつての巨人戦中継でそれを学んでいたために、レギュラー番組で安定した視聴率を稼ぐことを優先した。カンフル剤には手を出さなかったのである。その典型が、日曜17時30分の『笑点』から22時30分『有吉反省会』までの盤石な並びだ。5時間半で軒並み二桁を記録し、20%前後の高視聴率が出る番組も少なくない。わずか1日で1週間平均で他局を圧倒していたと言っても過言でないくらいの勢いだった。

もう1点日テレは今、広告収入が絶好調だ。94年から10年連続三冠王だった頃には、視聴率トップでも広告収入でフジテレビの後塵を拝していた。それが14年度は、視聴率に並び広告収入でもトップを窺う勢いとなっている。「世帯視聴率、個人視聴率ともに広告主のニーズを満たしており、今が両面で一番良いバランスだと思います」というのである。1980年代以降フジはF1に強い局として君臨してきた。これ対抗して、10代と随伴視聴する40代前後の層を狙う番組を開発して来たのが功を奏したのである。

 

放送という枠組み外での挑戦

同局は2013年11月に、「日テレJoinTVカンファレンス2013」を開催した。その席で同局は、「O2O2O」というセカンドスクリーンを絡めた新戦略を発表した。その場にスピーカーとして招待された筆者は、同局の方向を「他にやるべきことが沢山ある!」と批判し、司会者を困らせてしまった。もはや一昨年のことだから鬼も笑えないエピソードだが、その2か月後に筆者は不明を恥じる思いを味わう。

筆者が言いたかったことは、「ソーシャル×テレビの対象者は実は一部に過ぎない。それより大問題は急増するタイムシフト視聴。日テレはソーシャルテレビで頑張っているが、タイムシフトにはどう対応するつもりか?」だった。ところが2か月後、同局は「日テレいつでもどこでもキャンペーン」と銘打った人気番組の見逃しサービスを始めた。録画再生視聴に対抗して、無料のVODサービスを数か月前から準備し、民放で初めて本格化に乗り出したのである。

同サービスは7月には、放送時とは異なる動画CMを付け始め、ビジネスとして成立するか否かのトライアルに変わった。録画再生では大半のCMはスキップされてしまうが、VODでのタイムシフト視聴ならCMは飛ばせない。一定額以上の単価を付けられれば、従来の広告収入以外の収入の柱に育つ可能性が出てくるのである。

同局は4月からhuluの運営にも乗り出していた。月額定額制で見放題となるVODサービスである。これで同局のVODサービスは、AD-VOD・S-VOD・T-VODと全ラインナップが揃い、現状の広告モデルにとってマイナスが大きい録画再生視聴に対応して行くことになる。

この放送という枠組み外での挑戦についても、小杉専務は言及していた。「まずは、違法動画配信に関しては、徹底的につぶしていかなければなりません」と、VODがテレビ局の得べかりし利益を毀損する違法動画対策であることを強調した。次に「AD-VODはPC、スマートフォン、タブレットと端末や場所を選ばずに視聴できます。ここが重要なポイント」と、視聴者が番組を見る端末がTVに限定されず、視聴機会が大幅に拡大するメリットを挙げた。そしてタイムシフト視聴が増え、まず苦しくなることが予想されるローカル民放対策として、「huluで配信し、マネタイズできるようにしていくこと」で新たな収入の道を拓こうとしていると言う。

日本テレビは1953年に民放初のテレビ放送を開始した。以後、テレビCM、カラー放送、海外映画の日本語吹き替え放送、音声多重放送、番組マーケティング、フライング編成、JoinTVなど、さまざまな「日本初」を実現してきた。一昨年に開局60年を迎えた同局は、「日テレは、もう一度、テレビをゼロから。」と宣言し、「日テレ」のロゴを「ゼロとテレ」の文字で組み合わせた新デザインに変えた。このパイオニア精神が、どこまで新たな境地を切り拓くのか。次世代メディア研究所はこうした挑戦の中から、次の時代のメディアの在り方を考えて行きたいと思います。

©2014次世代メディア研究所