シリーズ「AIで開発するコンテンツ&IP」(後編)


【後編】「オンデマンド・ピンポイント・自分事」の極み

当シリーズではこれまで、生成AIが社会に与えるインパクト、労働集約型だったマスメディアの省力化やコスト削減効果、そしてテレビ広告費以外の収入増の可能性について触れて来た。

 

映像情報の消費において、選択肢が少なかった時代はテレビ放送が圧倒的だった。ところが「オンデマンド・ピンポイント・自分事」に勝るインターネットの登場で、テレビ放送をリアルタイムに視聴する総量は減少の一途となった。このままでは2030年代前半にテレビ広告費はピークの半減が免れない。

 

ではどうするのか。

伝統的に“1対n”とマスを対象に情報発信してきたテレビだが、生成AIを活用すればインターネットが得意とする“n対n”の世界にも入りやすくなる。しかも“1対n”時代の高品質かつ豊富なアーカイブがある分、少数者へ特定情報の発信でも安価にニーズの高いものを制作できる。

 

“1対n”をフックにして“n対n”の特定情報を少数者に提供する新システムの可能性を考える。

 

可処分時間の争奪戦

メディア界で展開されてきた競争は、インフラやシステムの競争とコンテンツなどの凌ぎ合いが同時に起こっていた。そして送り手ではなく受け手の側から見ると、国民の“可処分時間の奪い合い”、つまり1日のうちの睡眠や仕事など必要不可欠な部分を除く余暇時間の奪い合いが展開されて来たのである。

 

その内実を振り返ってみよう。

アナログ時代のインフラは、4マスが独壇場だった。新聞・雑誌・ラジオ・テレビだ。そして4者の間での競争は、インフラとしては瞬時に千万単位の消費者に届けられ、コンテンツとしてはテキスト・音声・映像の全てを駆使しリアリティに富むテレビが圧倒した。20世紀が“映像の世紀”と言われた所以である。

 

そしてコンテンツの担い手は、メディア企業などで経験を積んだプロが大半だった。一部は素人の発信もマスメディアに載ったが、ビッグヒットは悉くプロの手によるものだった。

デジタルになるとネットやSNSが台頭し、マスメディアの占める割合は減少した。例えばどのテレビ局よりYouTubeが多くの接触時間を誇るようになった。よってコンテンツも、非プロのものが急増した。プロは消費者の数を極大化しようとするが、非プロのコンテンツはより“自分事”なものが多く、1つ1つの消費量は多くなくとも、非プロのコンテンツが無限といっても良いほど増えると、消費の総量がマスメディアを凌駕し始めたのである。

 

ならばマスメディア側も、“1対n”でマスをとりつつ、“n対n”コンテンツを大量に生産し、結果として消費総量を伸ばせば対抗できる。それを可能にするのが生成AIだ。

 

活路は“低コスト”と“自分事”

ただし素人もプロも、AIを駆使するのは可能だ。つまり素人でも一定水準以上のコンテンツを作成できてしまう。それらがネットやSNS上を飛び交うようになる事態は避けられない。つまり放置しておくと、インフラ部分でもコンテンツ制作の局面でも、マスメディアやそこに属するプロの出番は減少せざるを得ない。

 

ではマスメディアやプロに勝ち目はあるのか。

そこは生成AIの使い方次第だ。まず素人が生成AIを使って制作した表現は、事実の正確性や著作権などの問題を含んでいる。既にインターネットの世界に規制が及び始めているように、生成AIコンテンツも何でもかんでも自由とは行かない可能性がある。生成AIが公衆網経由で各種の情報を参考にする以上は避けられない事態だ。

 

一方マスメディアは、最終表現物の前提を限定することで対抗できる。映像で言えば自局のアーカイブであり、テキストは取材に基づく、あるいは専門家との連携で用意したものである。

しかも初期コストは、マスメディア用表現で大半を回収しておく。そこから数十・数百のコンテンツを派生させ、例え消費者の数が一桁二桁少なくなろうとも、単価が上がれば利益を結果するようになる。生成AIを駆使して作る大量のコンテンツだから、1つ1つの単価が二桁三桁安くなるからである。

 

こうしてマスメディアが苦手とした「オンデマンド」「ピンポイント」「自分事」を実現させる。あとはマネタイズのためのビジネスモデルをどう工夫するかとなる。

 

例えば「AIラーニング」

当シリーズ中編では、人気キャラクターが一人一人と対話するサービス、観光地などで自分にカスタマイズした景色を堪能するなど、娯楽系でのサービスを挙げた。

 

実はそれ以外にも、ニュース・情報・教養の世界でも展開が可能だ。例えばニュース。30分や1時間の放送では、項目の重要度を局が選んで並べている。ところが視聴者によっては、関心のない項目も少なくない。そこで最初に「今日の主な経済ニュースは?」の問いかけにAIが数分で簡潔に答えるとしよう。そこから「円高の動向を詳しく」や「今年の暖冬の影響は」などのニーズにAIが詳報したら、そのサービスは経済活動に直結するだけに利用者が少なくとも高単価なサービスにできる。

 

医療情報でも同様だ。マスに向けた「腰痛」をテーマにした番組をベースに、利用者が幾つかの症状を言い、それに可能性のある診断や対応する医療機関などの紹介するサービスを構築したら、当人には便利で重要となる。あるいは保険組合が財政安定化のために契約するというB2Bビジネスに成長する可能性がある。

 

要はマスメディアが集めた情報に基づき、AIラーニング的なものにしたら、便利なサービスに進化し、ビジネスの可能性が出てくる。

 

マスメディアには“1対n”の関係で、多くの支持を集めた時代があった。ところがネットやSNSが重要になった以上、多様なニーズと個別の解決策という“n対n”の関係で支持されるサービスも視野に入れなければならない。

大変な時代であることは間違いない。ただしマスメディアこそ、AIの補助を前提に活躍できる時代が到来しようとしているのである。

 

 

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