TVドラマ再考(上) “秋クールは好調”というけれど・・・


GP帯で放送されている民放ドラマ14本中12本が視聴率二桁スタートとなった秋クール。好調の評判が高いが、俯瞰してみると手放しでは喜べない現実が見える。右肩下がりのトレンドを正しく認識し、事態を改善するための次の一手を冷静に考えるべきだろう。

多彩なドラマが並んだ秋クール

多彩なドラマが並んだ秋クール

スタートは好調!?

2015年秋ドラマが先週ですべて出そろった。各ドラマの初回視聴率では、『相棒season14』が18.4%でトップ。2位『下町ロケット』が16.1%と肉薄していた。しかも2回目は『下町~』が17.8%と率を上げ、『相棒14』を0.2㌽逆転するデッドヒートを展開している。1話につき1億円前後を投じているとの噂もある『下町~』については、TBSテレビ武田社長も定例記者会見で「文字通りロケットスタート」「半沢を超えて欲しい」と喜びと期待を隠さない。

GP帯で放送している他の民放ドラマも、全14本中12本の視聴率が二桁を取り、活字メディアの中では「秋ドラマまずまずのスタート!」「10月期ドラマ好発進」「粒ぞろい 見応えあり」などの記事が目立った。大方の見方は、「スタート好調」となっている。

別視点で印象は変わる!スライド1

しかしこんな見方も出来る。図1のように、他の時期と比較できるドラマ枠に限って初回視聴率を比べると、確かに秋ドラマは夏ドラマと比べ1枠が下がったものの7枠は上り、絶好調に見える。しかし今年の春ドラマと比べると、1枠下がり3枠上がっただけで、大躍進というほど好調ではない。人は直近の印象でものを見がちだ。“好調”という評価も、夏ドラマが不調だったがゆえの可能性がある。スライド2

事実、過去5年の秋ドラマの初回視聴率を並べると、全く異なる風景が見えてくる。5年間で上下激しく動いた枠もあるが、11年秋と比べると、15年秋は1枠上がっただけで、2枠が横ばい、7枠が下がっている。しかも横ばいのうちの1枠、13年秋や14年秋と比べると大きく下がっている。つまり秋ドラマの初回としては、今期ドラマは好調どころか、下降傾向の中にあるという見方も出来るのである。

地上波テレビはジリ貧

そもそも地上波テレビ視聴率は、HUT(総視聴率)も各チャンネルの視聴率も近年下降傾向にある。HUTは90年代には70%あった。しかし過去15年で約1割を失い、14年度は63%しかなかった。さらにNHKと民放キー5局の主なチャンネルの合計視聴率は、もっと厳しい状況にある。“その他視聴率”と呼ばれるBS・CS・CATVなどの数字が上がってきたためで、68%ほどあったものが今や55~56%に落ちてしまっている。15年間で15%ほどパイを失った格好である。スライド3

原因は録画再生視聴が増え、リアルタイムに番組を見る人が減っているからだ。さらにインターネットの普及、特にスマホの利用者が増え、テレビ視聴時間は確実にスマホに侵食されている。博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が毎年実施している「メディア定点調査」によれば、2010年との比較では2015年、国民一人あたりのテレビ接触時間は20分減った。いっぽうスマホやタブレットの接触時間は合計で76分も増えている。パソコンも含むインターネット端末全体の接触時間では、既にテレビより多くなっているのである。

録画再生視聴の影響については、NHK放送文化研究所が5年に1度実施している「日本人とテレビ」にも実態がよく表れている。1985年に始まった同調査の2015年版が7回目だ。テレビの録画再生やDVD再生を含まない放送のリアルタイム視聴(平日)は、前回までの過去6回ですべて増加していたが、直近5年で初めて減少に転じたのである。最大の原因はデジタル録画機(DVR)の利用拡大にある。DVRの世帯普及率は既に8割ほどに達しているが、日常的に利用する人も5年前より7㌽増え56%に達していたのである。しかも10代後半から50代までで、男女とも7割前後を占めるまでに至っている。

タイムシフト時代のドラマ

録画再生が最も頻繁に行われる番組ジャンルはドラマだ。最新の情報を求めるニュース、暇つぶしや慰安を求めて見られるバラエティと異なり、物語をじっくり味わいたいドラマは、家族に邪魔されず落ち着いて集中できる時間に見たいから、録画再生されることが多い。

スライド4 こうした事情もあり、ドラマの視聴率は過去20年ほど大きく下がっている。例えばトレンディドラマ全盛だった1997年、GP帯で放送されるドラマのうち、視聴率が15%を超えるものは年間で32本もあった。ところが2002年は13本減り19本、2007年12本、2012年7本、そして今年は冬~夏までの3クールで15%越えは皆無となっている。秋クール序盤を見る限り、15%越えが今年は1~2本に留まる可能性が高い。

 

 

如何だろうか。確実にTVドラマの視聴率は右肩下がりのトレンドにある。ゆえに前クールとの比較で一喜一憂しても、大きな流れを変えることにはつながらない。では、どうしたら良いのか。そもそも視聴率とは、CM取引のための一つの指標に過ぎない。この指標だけで、論理・情緒・価値観などが入り組む人間の物語を評価するには無理がある。ましてや指標に合せてドラマの作り方を変えてしまう姿勢は、必ずしも幸福な営みとは言えない。やはり、この状況で出来る努力を追求するしかないだろう。では具体的な方策を、シリーズ次回に考察して見たい。

【御礼】セミナー『マスコミ不祥事はなぜ続く~リスク回避のABC~ 』のご報告


9/7(月)に、セミナー『マスコミ不祥事はなぜ続く~リスク回避のABC~』を開催致しました。
お陰様をもちまして、約30名の方にご参加いただくことができました。
参加者の皆様、またパネリストの方々及び会場設営等ご協力をいただきました皆様、ありがとうございました。

なお、11/4(水)には、セミナー『米国広告市場 最前線~日本にどう波及するか?~』を開催致します。
ご希望の方は是非ご参加いただけますと幸いです。
(詳細は近日中にUPさせて頂きます)

11/4(水)開催セミナーの詳細はこちらをご参照ください。

 

(参考)9/7(月)に開催したセミナーの詳細情報は以下の通りです。

9/7(月)開催
次世代メディア研究所2015年セミナー 

マスコミ不祥事はなぜ続く~リスク回避のABC~

<開催日時>  2015年9月7日(月)午後3時~6時
 <会  場> インテージ秋葉原ビル・セミナールーム
(JR・地下鉄日比谷線秋葉原駅から徒歩3分・ 地下鉄銀座線末広町駅から4分)
 <パネリスト> ACEコンサルティング(株) エグゼクティブ・アドバイザー 白井邦芳氏
(現在放送中のフジテレビ『リスクの神様』危機対策監修を担当)増田パートナーズ法律事務所 弁護士(日本およびニューヨーク州) 増田英次氏
 <モデレーター> 次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司


<開催趣旨>

過去30年を振り返えると、様々な不祥事がマスコミで起こっています。主なものは以下の通りです。

85年のテレビ朝日 『アフタヌーンショー』やらせリンチ事件
89年TBS『オウム真理教ビデオ』問題
91年NHK『ムスタンやらせ』問題
03年日テレ『視聴率不正操作事件』
07年関テレ『発掘!あるある大事典』データねつ造問題
11年東海テレビ『ぴーかんテレビ』セシウムさん騒動
13年フジテレビ『ほこたて』やらせ問題
14年朝日新聞『従軍慰安婦誤報問題』『「吉田調書」誤報事件』
15年テレビ朝日『「報道ステーション」古賀茂明氏降板問題』
NHK『「クローズアップ現代」やらせ問題』

危機管理の観点から、メディアで起きる不祥事の特徴と、その対応で留意すべき点などを、専門家お二人に過去の象徴的なケースなど交えご解説頂きます。そして今後マスコミが留意すべき点を確認すると共に、メディア企業のあり方を見直すきっかけにしたいと存じます。

時代はますます複雑化し、変化のスピードも速くなっています。メディア企業で働く管理職および日々難しい取材・制作に携わる現場の方々必見のセミナーです。


<セミナーの概要>

【Ⅰ.専門家2人によるプレゼン】(90分)

 ACEコンサルティング(株) エグゼクティブ・アドバイザー 白井邦芳氏

知らないうちに蔓延する視聴率や営業成績への社内圧力、番組制作会社への過度な要求などが原因で発生する「やらせ問題」や結論ありきの「誤報問題」など。ソーシャルメディア等の新たな媒体が急激に発展しつつある中、競合他社との熾烈な売上競争が顕在化しているメディア業界では、メディア本来の社会的公器としての役割や姿勢について問われる不祥事が相次ぎ、深刻な状況になりつつある。予防の視点でのリスクマネジメント活動と、それでも潜在化していたリスクによって惹起される企業を揺るがす危機が発生した場合の初動及びその後の適切な危機管理活動について、専門家の立場から提言したい。特にメディア業界という特殊性に鑑み、どのような点に留意すべきかなどについても触れていく。

増田パートナーズ法律事務所 弁護士(日本およびニューヨーク州) 増田英次氏

マスコミ関係者はもちろん、ビジネスパーソンで、今日、コンプライアンスという言葉を知らない人はいません。しかし、著名企業での不祥事は一向に減る気配がありませんし、マスコミでの不祥事も頻繁に生じています。なぜ、これほどまでにコンプライアンスの重要性が叫ばれているにも拘わらず、不祥事は減らないのか?コンプライアンスに対する現状の取り組みには、どこかに大きな落とし穴や盲点があるのではないでしょうか?
このような視点から、当セミナーでは「どうしたらコンプライアンスが本当に自分たちのものになるか」について、法律以外の心理学・行動倫理学・コーチングの知識技術等を駆使しながら、その現状とその対策を考えていきたいと思っています。キーワードは「ルールよりもマインドを変える」と、個々人のマインドとルールのあり方を切り離さない「エモーショナルコンプライアンス」の二つです。この新しい見方、考え方を通じて、マスコミ関係者の方に多くの気づきやヒントを提供できれば幸いです。

- 休憩 -(10分)

【Ⅱ.Q&A / 過去の具体例を振り返りつつ議論】(80分)

講師への質問・反論などに続き、参加者から選択してもらった過去の不祥事例などをベースに簡単なケーススタディ&議論へと深めて行きます。具体的に課題と感じているテーマがありましたら、どんどんお寄せください。具体的なコンサルを事実上受けることが出来ます。

 

<講師プロフィール>

ACEコンサルティング(株) エグゼクティブ・アドバイザー 白井邦芳氏
危機管理コンサルタント、早稲田大学教育学部卒業。AIU保険会社に入社後、数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員賠償、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理支援に多数関わる。AIG Risk Consulting首席コンサルタント、AIG Corporate Solutions常務執行役員を経て、現在、ACE Consulting Executive Advisor。日本リスクマネジメント協会顧問、経営戦略研究所外部専門委員、日本法科学技術学会正会員、日本内部監査協会講師、日本クレジット協会講師。産業再生機構及びその投資先企業のリスク管理を担当するなど、手がけた事例は 2,400 件以上に上る。その分野は、危機管理、リスクマネジメント、コンプライアンス、内部統制などの専門家として広い範囲で活躍の場を広げている。フジテレビ「リスクの神様」の危機対策監修を担当。主な著書は「企業の危機管理コンサルティング」(中央経済)、「リスクマネジメントの教科書」(東洋経済)など。

増田パートナーズ法律事務所 弁護士(日本およびニューヨーク州) 増田英次氏
弁護士、ニューヨーク州弁護士。中央大学法学部卒業後、西村総合法律事務所(現・西村あさひ法律事務所)、米国イェール大学ロースクール客員研究員、メリルリンチ日本証券株式会社法務部長兼執行役員、コロンビア大学ロースクール修士課程(LL.M.)などを経て、増田パートナーズ法律事務所を設立。複数の上場企業等の役員を務めるほか、コンプライアンスの第一人者として講演なども多数こなす。Best Lawyers in Japanに数年続けて選出されているほか、IFLR1000、Legal 500(Asia Pacific)等世界的な弁護士評価機関からも高い評価を受けている。
主な著書『「正しいこと」をする技術――コンプライアンス思考で、最短ルートで成功する』(ダイヤモンド社)、『もうやめよう! その法令遵守』(フォレスト出版)、『人生を変える正しい努力の法則』(かんき出版) 

次世代メディア研究所 代表 鈴木祐司
1982年にNHK入局。制作現場では主にドキュメンタリー番組の制作を担当。97年に放送文化研究所に異動。98年日米ジャーナリスト交換プログラムで、アメリカの放送デジタル化の動向を視察。2003年放送総局解説委員室解説委員兼任(専門分野はIT・デジタル)。09年編成局編成センターへ異動。大河などドラマのダイジェスト「5分でわかる~」を業界に先駆けて実施、他に各種番組のミニ動画をネット配信し、NHKのリーチ拡大を図る。12年にNHKスペシャル事務局へ移動し、放送前にミニ動画を配信して視聴率を上げる取組等を手掛けた。2014年独立、次世代メディア研究所代表・メディアアナリストとして活動。

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