TV局・リーダーたちの言葉


偉大さとは、方向を与2015年 キー5局はどこへえること

今週多くの企業ではトップが社員を集め、新年のあいさつを行った。TV局などメディア企業も例外ではない。ニーチェ曰く「偉大さとは、方向を与えることだ。どんな河も自分自身によって大きく豊かなのではなく、多くの支流を受け入れて進むことによってそうなるのである。あらゆる偉大なる精神についても同じことがいえる。肝心なのは、のちに多くの支流が辿ることになる方向を示すことである」。組織の長たる者の年頭のあいさつは、方向性を示すという意味で一聴に値するケースが多い。TV局リーダーの言葉も、今週の新聞・業界誌・各局ホームページに多数紹介されたが、その中から各局の状況と重ね合わせると含蓄の深い言葉を拾い集めてみた。

まずは2014年に3年ぶりに三冠王に返り咲いた日本テレビの大久保好男社長。2014年の年間世帯視聴率(13年12月30日~13年12月28日)で、3年ぶりに三冠王に返り咲いたことについては、HP上の「年頭のご挨拶」で「多くの視聴者の皆様に当社の番組を支持していただき、心より感謝申し上げます」と型どおり。ところが局内の新年式典では、視聴率の勢いに乗り「通期放送収入総額もトップを」と檄を飛ばした。

実は同局は、94年から10年連続三冠王だったにも関わらず、当時は広告収入でフジテレビに遅れをとり続けた。そこで世帯視聴率だけではなく、10代と随伴視聴する40代前後の層を狙う番組を開発し、広告単価を上げる努力をしてきた。14年度はようやく、その悲願が達成する可能性が出て来ていたのである。

同時に大久保社長は、「好調な今が衰退の始まり」と、慢心を諌めることも忘れなかった。「現状維持は衰退の一歩」「得意な時こそ謙虚に新しい目標に挑戦して欲しい」「生き残りには時代の流れに適応して自らを変え進化していくこと」「イノベーションは自己否定から始まる」「“打倒日テレ”だ」。一昨年に開局60年を迎えた同局は、「日テレは、もう一度、テレビをゼロから」と宣言していたが、この間の方向性は一貫していると言えよう。これらの言葉の通り、社内の多くの支流が本流に合流すれば、同局にはしばらく死角がない。

捲土重来に向かう言葉

12~13年と日テレと激しく首位争いを演じたテレビ朝日の早河洋会長兼CEOは、社内およびグループ向けの挨拶をHPに掲載した。同局の視聴率は14年春と夏に失速し、首位日テレに大きく水を開けられる原因となったが、秋改編以降やや持ち直した。早河会長も「10月クールと年末年始の奮闘で復調のきっかけをつかんだ」とまずは前向きな姿勢を示した。ただし今の実力ではまだ不十分で、「視聴率トップ争いへのヒントは、私達が創り上げてきた最近のヒットコンテンツの中にある」と5例を挙げた。

筆頭は昨年夏に公開して83億円の大ヒットとなった出資映画「STAND BY ME ドラえもん」。VFXの専門家と組み「3DCGという今日的な新しい表現方法に挑戦」したことが勝因と分析。「才能あふれる創造的なパートナーとの新たな協業が不可欠」とした。

次が15年間で240話近くが放送され、全平均視聴率16%台を記録している「相棒」。長く視聴率を落とさず、評価され続ける要因として、俳優・シナリオライター・制作スタッフによる「ものづくりネットワーク」が重要と強調した。

3つ目が第3弾全11話平均22.9%という驚異的な視聴率をたたき出した「ドクターX~外科医・大門未知子~」。主演の米倉涼子・彼女と長く仕事をしてきた内山プロデューサー・シナリオライター中園ミホの3人の女性の和が大きかったという。以上3例から、「ヒットコンテンツを生み出すには一定の時間がかかる」「経営トップから現場の人間までの一体感が必要」と総括した。

4点目はスポーツ。「世界水泳」「サッカーAFCアジアカップ」「フィギュアスケートなど、同局は今世紀に入って「放送権獲得にかなりの経営資源を投下」してきた。「迅速な作戦が奏功した」と、ここは自画自賛。

そして最後がバラエティだが、「この10年、テレビ朝日を元気にしたバラエティ番組がここにきて元気をうしなっています」と、弱体化を認める所から入った。しかし反転攻勢の兆しも出て来ており、「スタッフは成功体験を思い起こし、ヒット番組、ヒットコンテンツを創り出す反発力を必ずや示してくれるものと確信」と奮起を促した。

首位争いから脱落し始めた瞬間に、三冠王直前まで駆け上がった直近10年を振り返り、「俳優・タレントおよび所属事務所との信頼関係」「ものづくりネットワーク」「権利ホルダーとの友好関係」「時間と予算をかけた中・長期戦略」「失敗のリスクを恐れない継続と挑戦」と、5つの重要ポイントを改めて言語化した。職員の再起を促すには、具体的かつ的確な言葉だったと言えよう。

やや対照的だったのが、14年の視聴率がG帯・P帯・全日のいずれもキー5局の中で3位に終わったフジテレビ。長期的にみると06年頃から率が徐々に下がり始め、改革に乗り出したにも関わらず、12年以降に逆に下落速度が速まっていた。さらに年始週(14年12月29日~15年1月4日)では、視聴率調査開始以来初のGP帯最下位を喫してしまった。新年全体会議に臨んだ亀山千広社長は、「今年は視聴率の話は止めよう思っていたが、この結果を見たらせざるを得ない」と急遽方針を変えた状況を業界紙は伝えている。

「視聴者の心が捉えきれていないことが全て」とまずは全否定から入った。その上で「最近よく『社長の考えがよく分からない』という声が聞かれる。逆に私は『あなた達は会社をどうしたいのか?』と聞きたい」と、テレ朝早河会長が指摘した「経営トップから現場の人間までの一体感」が失われている現実を露呈する話となった。亀山社長も年末年始のタイムテーブルを見た際に疑問があったようだが、発言を控えたらしい。「意見を言うことから逃げていた」「社長であろうと意見を言うべきだった」「その代わり私にも意見を行って欲しい」と続けたのである。いまだ混迷の渦中と言わざるを得ないが、今後どう巻き返しを図るのか。「フジに元気がないと困る」という声を、他局幹部からはよく耳にするが、業界全体の活気を増すためにも、同局の捲土重来を期待したいものだ。

下位2局の明暗

フジと同じように、視聴率低迷で苦しんでいるのはTBSだ。06~09年に大きく数字を落とし、以降は低迷のまま横ばい状態が続いていた。ところが14年はさらなる下落が始まった印象だ。G帯・P帯・全日のいずれも、前年比で0.5ポイント前後も成績を落としている。その1年が改まった年頭の石原俊爾社長あいさつは、テレ朝と同じ様に、HPに掲載された。ただしテレ朝早河会長と違い、具体的な対応策が示されることはなかった。

2015年を「戦後70年、TBS60年という節目の年」とした上で、「私たち報道機関が『何を、どう伝えて行くのか』、今年は、その責任、使命が今まで以上に問われる年」と断じた。節目だからそうなのか、もう少し説明を聞きたいところだが根拠はない。また、「コンテンツの強化が喫緊の課題であることは言うまでもありません」としながらも、具体的な対策は示されなかった。週前半のバラエティ番組はやや回復しているとし、「これでドラマが安定してくれば、いい勝負ができる状況に来ていると思います。もうひと踏ん張りです、頑張っていきましょう」と檄を飛ばすに留まった。支流たる各職員を一つの方向に向かせるためには、もっと強力な求心力が求められる。

いっぽう視聴率の絶対値こそキー5局中最も低く万年5位のテレビ東京だが、島田昌幸HD社長の新年祝賀会での挨拶には含蓄があった。開局50周年にあたる2014年の取組に手応えがあり局の評価が上昇していると評価し、16年の社屋移転と統合マスター運用開始に向け15年が重要な年と位置付け、重要課題を具体的に3点挙げた。「HD組織の見直しと機能強化」「映像技術の革新・配信の高度化にグループをあげて取り組む」「技術革新・新ビジネス開発の投資を賄う利益を出せる経営体質の構築」だ。干支の「未」はくだものが熟し切っていない状態を示すという薀蓄を示し、「発展途上の我々にはぴったりの年。『あの年こそクループの跳躍台になった年だった』と言える年にしたい」と締めくくった。

実はテレ東は、08~11年に視聴率を落としていた。ところが12年以降じわじわ数字を上げ、14年も前年比で全日・G帯・P帯はいずれも0.3ポイント上乗せした。その意味で島田社長の「局の評価が上昇している」は頷ける。しかも12~14年の上昇気流を、新技術・新サービスで確固たるものにするという方向性は、職員にとって納得性の高いスピーチと言えよう。

以上がキー5局のリーダーたちの新年の挨拶だ。テレビ局は表現者集団であり、そのトップは表現について一定の見識を持ち、かつ高い経営手腕が求められる。そんな彼らの1年最初の言葉が、各表現者(支流)にどう受け入れられ、実際に組織を活性化させ(本流へと束ね)、視聴率や広告収入などの実績に如何に結び付くのか(偉大な本流になるのか)。サッカー試合後の各プレイヤーの採点表のように、彼らの方向性がどの程度的確だったのか、1年後に評価してみたいものである。各局のこの1年の奮闘を注視したい。

年末年始フジ惨敗というチャンス!


視聴率が振るわなかったフジ「ワンピース」再放送

視聴率が振るわなかったフジ「ワンピース」再放送

再放送で低視聴率

1月5日は仕事始め。魚市場の初セリ、小売業の初売り、東証での大発会など、夕方のニュースは今年最初のイベントで大賑わいだった。ところがこの日のスポーツ紙では、華やいだ雰囲気とは逆に、暗いニュースが紹介された。フジが年末年始の番組で大惨敗したというのである。「戦わずに惨敗・・・フジの淋しい年越し」と題された記事は、「大みそかにまさかのアニメ再放送で勝負に出たフジテレビ『ワンピース』が、視聴率3.3%で惨敗してしまった」と始まった(日刊スポーツ)。「打倒紅白の番組を“作らない”という、後ろ向きなチャレンジ」「ダイナミックな企画力で他局をリードした時代を知る者としては複雑な思い」など、記事では手厳しい文言が並んだ。

確かに大みそかと元旦のフジは、視聴率が芳しくなかった。アニメの再放送3.3%は、42.2%の紅白に対抗した日テレ「笑ってはいけない」18.7%(1部)の約6分の1だ。TBS「KYOKUGEN」9.0%(3部)と比べても約3分の1、テレ朝「くりぃむVS林修」5.9%(2部)や、テレ東恒例の「第47回年忘れ日本の歌」5.8%にもダブルスコア近く離された。「振り向けばテレ東」ならぬ、“仰ぎ見るテレ東・振り向けばEテレ”だったのである。

近年のフジにとって、大みそかは鬼門のようだ。2010年以降では、3年連続4%台、そして去年の「祝!2020東京決定SP」に至っては2.0%。そして今回のアニメの再放送だ。「もはや勝てない戦に金をかけないとう発想」「“作らない”という選択はかっこ悪く見える」など、記事では厳しい批判が続いた。

ちなみに元旦の夕方6~9時の「オールハワイナイトフジ2015」も4.4%、夜9時~11時半の「鶴瓶のうるさすぎる新年会2015」も3.6%と、在京キー局番組の中で最下位だった。前者は往年の「オールナイトフジ」的なタイトルだが、ここ数年の同局は続編頼みが目立つ。12年秋改編では、90年代に一世を風靡した「料理の鉄人」のリバイバル「アイアンシェフ」があった。90年代末からの大ヒット「ショムニ」のリバイバル「ショムニ2013」が一昨年、01年に全話が30%を超えた「HERO」の続編「HERO」は14年に同局で最も当ったドラマだった。しかし記事は「保守的なチャレンジ」とやはり辛口が続いた。

番組制作というビジネスの視点

しかし冷静に考えると、再放送や続編はそんなに批判されることだろうか。まず全体を俯瞰すると、関東地区では15年ほどでNHKとキー5局の合計視聴率(G帯)は15%ほどパイが縮小している。その中でNHKが一定の数字を獲っているとしたら、民放の獲り分は当然厳しくなっているわけで、経営判断として安全策をとることがそんなに批判されるべきことだろうか。

実は再放送については、「北の国から」が2003年12月16日からの夜帯で5夜連続再放送されたことがある。83~02年までの全ドラマの中から、ハイビジョン撮影されていた分をまとめ、地デジ開始に併せた放送だった。視聴率は13%ほどで飛びっきり高くはなかったが、フジの幹部によると赤字続きだった同ドラマは、この放送で初めて通算で黒字になったという。再放送は制作費が不要だ。権利処理コストと13%の広告収入を比べれば、利益が十分あったと推測される。

明くる2004年正月にも、前年夏クールに放送された「ウォーターボーイズ」が一挙再放送された。この時は演じた役者の何人かが登場してMC的な役割を演ずるという工夫があった。これも一定の数字を獲り、放送としては成功だったと聞いている。

つまり問われるべきは、惨敗であり、再放送とか続編という放送の仕方ではない。視聴率的に華々しくなくとも、収支で見て意味のある結果であれば良しとすべきではないだろうか。それが右肩上がりではなくなった放送業界の、次世代を見越した新しい戦略ではないだろうか。実は当時、フジの幹部がちょっと憚られる表現で、テレビビジネスの課題を指摘していた。曰く「現状は処女ばかりの女郎屋となっているが、二次利用なども含めて勝つ体質に変える必要がある」。売上高至上主義ではなく、利益重視の姿勢を言っていたのである。

今回の年末年始なら、権利処理が可能であれば、01年「HERO」と14年「HERO」の比較文化論的な見せ方は出来なかっただろうか。例えば主人公・久利生検事の14年の変化や、事務官を演じた松たか子と北川恵子を徹底比較するトリビア特番だ。冬クールでヒットした「信長協奏曲」だったら、主要登場人物の視点から各話の重要シーンを振り返るスタジオ番組だって可能な気がする。そもそも同ドラマは今年12月に映画化が予定されている。仮に視聴率が4~5%に終わっても、TBS「MOZU」が有料放送のWOWOW加入者を大量に生み出したように、「信長協奏曲」フリークを数百万人生み出せれば、映画の方で大きな利益につながる。

テレビ番組の批評として、再放送や続編の多用を批判する気持ちは分からなくはない。しかしテレビ局をとりまく環境は80~90年代とは大きく異なる。米国だってテレビ番組は「半年分を制作し、残り半年は再放送」することで、テレビビジネスを最適化させてきたではないか。90年代に筆者が訪ねたカリフォルニアの某独立系テレビ局は、夜7~9時の3時間に、同じ1時間ニュースを3回、生で繰り返していた。キャスターはライブでコメントするが、大半のニュースVTRは使い回しだった。こうすることで、放送1回の視聴率4~5%の番組が3回で15%近くに達し、ペイしていたのである。

ネット・SNS・デジタル録画機が普及し、ダブルスクリーン視聴やタイムシフト視聴の生活者がかなり多くなってきた。テレビの位置づけは、アナログ時代とは一変したと覚悟すべきだ。その時代に合致した番組制作や放送の仕方を、テレビ局も工夫しなければ生き残れない時代。「紅白」や「笑ってはいけない」のように従来と変わらない作り方の番組も必要だが、全6チャンネルがそのままである必要はない。その意味で、フジの年末年始惨敗は、時代に合った新たな制作・編成の仕方を考えるきっかけになったのではないだろうか。不発を指弾する外野の声に惑わされずに、苦境を奇貨として新たな文化を切り拓いてもらいたいものである。現代は「楽しくなければテレビじゃない」だけでは通用しなくなった。「新しくなければテレビじゃない」の姿勢が求められている気がしてならない。

 

紅白タイムシフト視聴顛末記


視聴率42.2%の意味

大晦日に放送された第65回NHK紅白歌合戦は、第2部の視聴率が42.2%だった(ビデオリサーチ調べ 関東地区)と、2日の各マスコミに取り上げられた。「前年より2.3ポイント下がったが、7年連続40%台を維持した」という表現が目立ったが、この表層的な報道って本当にどれだけ意味があるのだろうか。

そもそも標本数600の関東地区では、視聴率40%の時の統計学的な誤差は±4.0%だ。「前年より2.3㌽下がった」というのは、完全に誤差の範囲なのである。つまり紅白第2部は38%ぐらいから46%程だったのである。また「7年連続40%台を維持」と言うが、08年以来40.8%・41.7%・41.6%・42.5%・44.5%・42.2%だったから、確実に「40%台を維持」したのは2013年だけ。ちなみに06~07年は39.8%・39.5%だったので、40%台だった可能性もある。

さらに言えば、発表されている視聴率は第2部の平均視聴率だ。つまり午後9時から11時44分までの毎分視聴率の合計164回の平均値に過ぎない。直観的に言えばその2時間45分の間、ずっとNHK総合をつけていた家庭は20%台。残りは見たい歌手のパートのみNHKで、他の時間は他局に回していた可能性がある。しかもその2時間45分間に1分でも紅白にチャンネルを合わせた家は、7割前後だった可能性がある。つまり紅白のつまみ食い視聴世帯は5割ほどに上る。ザッピングやフリッピングしながら紅白を見た、あるいは正月の準備や初詣などの用事があり、一部の時間しかテレビをつけていなかった家庭だ。しかもこうした多忙(?)な方々には、今や便利なデジタル録画機もある。録画再生で見たい部分をじっくり見た家庭も2~3割はあったのではないだろうか。かくいう筆者宅には全録(8chを一週間分全て収録可能なデジタル録画機)があり、大晦日の紅白については全て録画再生で、リアルタイム視聴は皆無だった。

たった一例だが、録画再生だと紅白はこんな見方になる!

実は我が家のテレビ視聴は9割以上がタイムシフトだ。家族構成は筆者が50代、妻は40代、長女10歳、長男6歳。末っ子といえども、テレビ視聴の大半はタイムシフト。「列車戦隊トッキュウジャー」「妖怪ウォッチ」「はなかっぱ」などが主な再生対象だ。小学5年の娘も「名曲アルバム」などのミニ番組を、編成表に頼らず検索で見ることが多い。必ずリアルタイムで見るのは毎朝7時30分からの朝ドラだけ。しかもこれはBSなので、もし我が家が視聴率モニターなら、地上波局の視聴率には全く寄与しない家庭となる。

さて紅白歌合戦が放送された大晦日だが、何かと準備の遅い拙宅では8時過ぎにようやく一家団欒がスタート。おもむろにリモコンを取り出し、まずは7時15分の紅白オープニングから再生し始めた。ところが冒頭はタモリと黒柳徹子のゆったりトーク。始まって30秒で、子供達は「つまらない」と非難轟々、日テレ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しSP」にタイムシフト・ザッピング。ところがこちらのオープニングは、約30秒に14~15カットが積み重ねられる超ハイテンポ。小学生にも40~50代にも、あまりに強い刺激のオンパレードに、やはり30秒で食傷気味。全録を備え選択肢が増えた家庭では、生視聴の時以上にオープニングに対する選球眼は厳しくなっているのである。

大晦日の2大番組に躓いた我が家は、ここでEPGと睨めっこ。するとEテレで「地球ドラマチック エトワールをめざして~オペラ座バレエ学校の子どもたち~」が目に飛び込んだ。バレエを習っているお姉ちゃんが俄かに色めき立ち、彼女の強い主張で視聴率では限りなく※印のEテレへ。ところが末っ子はここで脱落、NITENDO3DSへと“テレビ離れ”。残り3人で30分ほど専念視聴した結果、この番組はDVD「パリ・オペラ座 バレエ学校の妖精たち~エトワールを夢見て~」と似ているとなり、ここで再び紅白に戻ることになる。時すでに9時近くだった。

ここで紅白に戻ったが、再生速度は基本が20倍速。最初の対戦のHKT48やSexy Zoneでもノーマル再生になることなく、最初に普通に見たのは7時30分頃の審査員紹介。これはもっぱら筆者の業界的関心の成せる業だった。

で結局、本格的に内容を見たのは直後の妖怪ウォッチ第一部。子供たちの要望によるものだが、彼らは「妖怪体操第一」を夢中で踊り、テンションは一挙に急上昇。しかもリクエストにお応えして、この部分は2回も再生する羽目になった。以降、順速で見たのは「マッサン」の3人が登場するクリス・ハートの「糸」、羽生結弦のスケート映像が出る徳永英明「花は咲く」、そして妖怪ウォッチが再び登場する嵐の「A・RA・SHI」。ここまでで末子は疲れてしまい、筆者が彼を寝かしつける役・・・結果は一緒に爆睡。妻も大掃除などで疲れたようで、まもなくダウン。結局お姉ちゃんは、Eテレ「地球ドラマチック」に戻って、全部を見てから寝たそうである。

大晦日当日はここまでだが、紅白のタイムシフトはここで終わりではない。翌朝、ネットで紅白の評判を調べた筆者は、続きを録画再生し始めた。チェックしたのは、第2部冒頭の「花子とアン」の紅白用ドラマ・吉高由里子のリアクション・綾香「いじいろ」・中園美穂インタビュー、ダルビッシュが髪を刈られたゴールデンボンバー「女々しくて」、ニューヨークからのイディナ・メンゼルと神田沙也加の「生まれてはじめて」「Let It Go」、薬師丸ひろ子「Woman“Wの悲劇”より」、中島みゆき「麦の唄」、美輪明宏「愛の賛歌」、ネット上で最も意見が飛び交ったサザンオールスターズ「ピースとハイライト」「東京VICTORY」、そしてオオトリの松田聖子「あなたに逢いたくて~Missing You~」。

それぞれネットには様々な意見・感想が寄せられていた。全録があると、こうした意見の中の気になる部分は、全て自分の目で確かめることができる。特にサザンオールスターズ桑田佳祐のチョビ髭や、歌われた2曲の意味などは、リアルタイム視聴では背景や意図が忖度できずに感動し損なったかも知れない。今回の紅白は「歌おう。おおみそかは全員参加で!」がキャッチフレーズになっていたが、ネット上の多くの意見を受けてタイムシフト視聴することで、この言葉の意味が深まったと感じた次第である。

莫大なお金と手間暇と才能を投入して制作する紅白歌合戦。全てを見ると4時間半は長すぎるが、見るべきパートは確かに少なくない。それらを的確に網羅できる録画再生視聴の素晴らしさを、紅白は改めて思い知らせてくれた番組だったのである。

蛇足ながら元旦の午後、筆者はTBS「KYOKUGEN2014 豪華アスリートが挑む極限対決7連発」を録画再生した。真剣勝負が幾つも登場する当番組は、同じ録画再生でも順速で見る部分が多く存分に楽しめた。視聴率こそ一桁に終わったが、録画再生向きの番組だったと感じている。TBSはドラマもそうだが、こうした見応えのある番組が少なくなく、結果としてリアルタイムではなく、タイムシフト視聴に流れる率が高い気がする。この辺りは改めて分析してみたい。

2014年は日本テレビの1年だった!


日テレ三冠放送という枠組み内で絶好調

2015年が始まった。メディア界はこの1年、どう変化するだろうか?新しい1年を展望する前に、まずは去年を振り返っておきたい。

2014年は日本テレビが主役の1年だった。去年末、同社ホームページに2014年の年間三冠王を獲ったことが発表された。「おかげさまで日本テレビは、2014年 年間視聴率(13年12月30日~14年12月28日)で、全日・プライム・ゴールデンの全3部門NO.1を獲得いたしました」。ビデオリサーチの関東地区世帯視聴率で、全日(6-24)が8.4%(13年は8.0%で1位)、プライム(19-23)12.5%(13年11.9%2位)、ゴールデン(19-22)12.6%(13年12.0%2位)だったという。

勝因として同社が挙げたのが、「この1年はそれぞれのレギュラー番組が本当に頑張りました」「番組を楽しんでもらうにはどうしたらよいのか、それぞれの番組が真剣に考え努力した結果が、日本テレビを楽しんでいただく習慣となり、多くの皆様からありがたいご支持をいただきました」だった。実はこの発言は、筆者が業界誌『B-maga』12月号に掲載した小杉善信専務取締役のインタビューに詳細が記されていた。「視聴者の中に体内タイムテーブルが自然と生まれることが望ましい」と題したインタビューの要点を紹介すると、以下のようになる。

日テレの強さの秘訣については、「ここ2、3年で言えば、タイムテーブル、レギュラー番組を大事にしてきたことが要因」「1週間の基本番組表は、いわば視聴者と広告主に対する“お約束”です。このお約束がきちんと行われているからだと思います」という。他局の編成は近年、期末期首以外でも2~3時間の特別番組が多くなっていたが、このやり方は短期的に数字をとっても長期的にはマイナスに働く。日テレはかつての巨人戦中継でそれを学んでいたために、レギュラー番組で安定した視聴率を稼ぐことを優先した。カンフル剤には手を出さなかったのである。その典型が、日曜17時30分の『笑点』から22時30分『有吉反省会』までの盤石な並びだ。5時間半で軒並み二桁を記録し、20%前後の高視聴率が出る番組も少なくない。わずか1日で1週間平均で他局を圧倒していたと言っても過言でないくらいの勢いだった。

もう1点日テレは今、広告収入が絶好調だ。94年から10年連続三冠王だった頃には、視聴率トップでも広告収入でフジテレビの後塵を拝していた。それが14年度は、視聴率に並び広告収入でもトップを窺う勢いとなっている。「世帯視聴率、個人視聴率ともに広告主のニーズを満たしており、今が両面で一番良いバランスだと思います」というのである。1980年代以降フジはF1に強い局として君臨してきた。これ対抗して、10代と随伴視聴する40代前後の層を狙う番組を開発して来たのが功を奏したのである。

 

放送という枠組み外での挑戦

同局は2013年11月に、「日テレJoinTVカンファレンス2013」を開催した。その席で同局は、「O2O2O」というセカンドスクリーンを絡めた新戦略を発表した。その場にスピーカーとして招待された筆者は、同局の方向を「他にやるべきことが沢山ある!」と批判し、司会者を困らせてしまった。もはや一昨年のことだから鬼も笑えないエピソードだが、その2か月後に筆者は不明を恥じる思いを味わう。

筆者が言いたかったことは、「ソーシャル×テレビの対象者は実は一部に過ぎない。それより大問題は急増するタイムシフト視聴。日テレはソーシャルテレビで頑張っているが、タイムシフトにはどう対応するつもりか?」だった。ところが2か月後、同局は「日テレいつでもどこでもキャンペーン」と銘打った人気番組の見逃しサービスを始めた。録画再生視聴に対抗して、無料のVODサービスを数か月前から準備し、民放で初めて本格化に乗り出したのである。

同サービスは7月には、放送時とは異なる動画CMを付け始め、ビジネスとして成立するか否かのトライアルに変わった。録画再生では大半のCMはスキップされてしまうが、VODでのタイムシフト視聴ならCMは飛ばせない。一定額以上の単価を付けられれば、従来の広告収入以外の収入の柱に育つ可能性が出てくるのである。

同局は4月からhuluの運営にも乗り出していた。月額定額制で見放題となるVODサービスである。これで同局のVODサービスは、AD-VOD・S-VOD・T-VODと全ラインナップが揃い、現状の広告モデルにとってマイナスが大きい録画再生視聴に対応して行くことになる。

この放送という枠組み外での挑戦についても、小杉専務は言及していた。「まずは、違法動画配信に関しては、徹底的につぶしていかなければなりません」と、VODがテレビ局の得べかりし利益を毀損する違法動画対策であることを強調した。次に「AD-VODはPC、スマートフォン、タブレットと端末や場所を選ばずに視聴できます。ここが重要なポイント」と、視聴者が番組を見る端末がTVに限定されず、視聴機会が大幅に拡大するメリットを挙げた。そしてタイムシフト視聴が増え、まず苦しくなることが予想されるローカル民放対策として、「huluで配信し、マネタイズできるようにしていくこと」で新たな収入の道を拓こうとしていると言う。

日本テレビは1953年に民放初のテレビ放送を開始した。以後、テレビCM、カラー放送、海外映画の日本語吹き替え放送、音声多重放送、番組マーケティング、フライング編成、JoinTVなど、さまざまな「日本初」を実現してきた。一昨年に開局60年を迎えた同局は、「日テレは、もう一度、テレビをゼロから。」と宣言し、「日テレ」のロゴを「ゼロとテレ」の文字で組み合わせた新デザインに変えた。このパイオニア精神が、どこまで新たな境地を切り拓くのか。次世代メディア研究所はこうした挑戦の中から、次の時代のメディアの在り方を考えて行きたいと思います。

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