堺雅人の真田丸

NHK大河ドラマの視聴率は、ここ何年か不調続きだった。ところが三谷幸喜がシナリオを担当する今年の『真田丸』は、初回19.9%・2回目20.1%と久々に20%前後の好スタートを切り、ネット上でも賛辞の声が多く聞こえるようになっていた。

「三谷幸喜ワールド全開!大河ドラマ『真田丸』はなぜこんなに面白いのか いきなり視聴率20%超え」では、「1年間待ったかいがあった!―そう快哉を叫ぶ大河ファンもいるだろう。三谷幸喜の脚本は真田家も視聴者も翻弄し、さながらジェットコースターのよう」と絶賛だ。

「『真田丸』脚本 三谷流と大河流を使い分ける絶妙なバランス」でも、「私がこのドラマ全体に感じたのは、大事件の躍動感、スピード感というより、三谷幸喜脚本の“三谷ドラマファン、歴史ファン、大河ドラマファン、それぞれに配慮したバランス感覚”だった」とシナリオの巧みさを褒めている。

 

ところが3回目の視聴率が18.3%、4回目17.8%と少し下がり始めると、ネガティブな声が喧しくなって来た。

「視聴率下降で早くも暗雲!? NHK大河『真田丸』の勝算は?」では、「三谷氏は04年放送の『新選組!』で、時代考証を無視した脚本で不評を買った前科がある。厳しい歴史ファンも、“三谷ワールド”に期待するファンも、両方を満足させる脚本にできるのか、今後に注目でしょう」と芸能評論家に語らせ、ドラマの今後を不安視している。

「NHK大河ドラマ『真田丸』 まずまずのスタートを切ったが“不安要素”も……」も、近年多くの大河が初期に最高視聴率をとり、その後徐々に数字を下げている事実を捉え、「『真田丸』も近年の大河同様、初回が期待度最高値で、その後、視聴率は落ちていくばかりということにもなりかねない」と、『真田丸』の行く末に暗雲が立ち込めると断ずる。

 

視聴率漸減は当然の時代!?

しかし、ちょっと待って欲しい。視聴率はリアルタイムに放送を見た人しかカウントしない。今の時代、1年間ずっと日曜8時の放送に付き合い続ける人は、高齢者を中心にある層に限られる。そもそも賛否を投げかけている評論家や記者の方々も、過半は録画再生で番組を見ている。番組を制作し放送するテレビ局の職員も、大半が録画再生で済ませている。にも関わらず、リアルタイム視聴の比率のみを評価軸にしている議論は何か変ではないか。スライド1○

過去6年の大河4回放送分の視聴率を比較してみよう。図1の通り、『江~姫たちの戦国~』(11年)と『平清盛』(12年)を除くと、その後の4年は全て4回までで視聴率は下降傾向だ。しかも当初4回が20%を超えた『江』も、11回目には15.7%と4分の1以上の視聴者を失っていた。『平清盛』も、6回目には4分の1の視聴者を失っていた。中には10回目に4割以上の視聴者を失った『八重の桜』の例もある。忙しい現代人は、放送局のために生活しているわけではない。連続ドラマにずっと付き合ってくれると思いこむ方が変であろう。

最終回に向けどんどん視聴率が上昇した『家政婦のミタ』(11年・日本テレビ)や、『半沢直樹』(13年・TBS)は、例外中の例外である。3か月しか続かない民放の1クールドラマですら、大半は半ばから後半にかけ視聴率が下がることの方が多い時代なのである。ましてや、登場人物が多く、時間と空間が複雑に交錯しがちな大河ドラマは、録画してじっくり見たいという人が多くても不思議ではない。

 

自らの見立てを言わない批評記事

否定論でもう1点気に入らないのは、執筆者自信がそのドラマをどう見ているのかを語らないことが多い点だ。視聴率だけで良し悪しを言うのは論外だし、内容に触れてもネット上の声や評論家の意見を紹介してお仕舞というケースが多い。自らを安全圏に置いて、遠くから貶すだけというのは、如何なものかと思ってしまう。

では、今回の『真田丸』はどうだろうか。視聴率こそ最低だった4回目だが、番組論的には間違いなく面白い出来だったと断言できる。筆者はラジオドラマぐらいしか制作した経験がなく、テレビドラマの専門家ではない。ましてや大河は例年ほとんど見ていないし、三谷幸喜のファンでもない。それでも番組は、ドキュメンタリーだろうとドラマだろうと、はたまたバラエティだろうと、面白さには共通点があると考えている。45分の番組なら、最低1か所、できれば2~3か所、唸るような場面が出て来ることだ。

今回の「決断」では、真田信繁(堺雅人)の父・昌幸(草刈正雄)が、織田信長(吉田鋼太郎)に接見する直前に、徳川家康(内野聖陽)と対峙する場面が圧巻だ。昌幸に二心あったのではないかと疑う家康。実際は二君を天秤にかけていたが、最後までとぼける昌幸。最後は互いの目を睨みつけ、本心を探り合う二人。息を飲むシーンは、ドキュメンタリーなら現実を切り取った決定的シーンと言える名場面だろう。

この場面を今回の最大の山場とすると、前後には主人公・信繁が主役となる小山も配置されている。信繁が初めて家康と出会った時のやりとり。実の姉・松(木村佳乃)と夫の密会を探るシーン。安土への人質を、何としてでも松にしようと父を説得するシーン。いずれも心の綾が垣間見える佳作シーンと言えよう。三谷幸喜に詳しい方は、これ意外に番組の随所に出て来る彼の上手いシナリオを褒めるのだろうが、筆者はドラマを“どう書くか”は評論しない。でも“何を書くか”の部分では、明らかに今回の大河には重いパンチが次々に見る側に繰り出されている気がする。

 

満足度が裏付け

以上のようなドラマ素人の筆者の感覚は、実は統計的にちょっと裏付けられる。満足度という尺度だ。視聴率はリアルタイムに番組を見た人の多寡を示すもので、いわば人気を計るバロメーターの1つと言えよう。いっぽう満足度は、実際に番組を見た人の評価で、いわば質の高さを示すと言えよう。そして録画数は、好きな時間にじっくり見たいという、いわば関心と視聴意欲の高さを示す。いずれもデータニュース社「テレビウォッチャー」が毎日3000人のモニターが自発的に見た番組について、両データを計測している。

まず録画数についてだが、視聴率と同様に漸減傾向にある。初期数回で視聴し続けるのを諦めた人々が一定程度いるために起こる変化だろう。ところが満足度の方は、実際に番組を見た人が5段階評価で採点している。テレビ局が依頼して特定番組を視聴してもらうモニター調査とは異なり、視聴を強制していない分、かなり正確な数値が出ていると考えて良かろう。スライド2

データが残っている『軍師官兵衛』(14年)、『花燃ゆ』(15年)の当初4回と比較すると、『真田丸』の高さが群を抜いているのが分かる(図2)。他2本は漸減傾向だが、『真田丸』では初回に戸惑った視聴者が、徐々に高い評価をしはじめていることがわかる。ドラマの場合は3.7程度が平均値となっている。3.9超えは相当高いと言えよう。スライド3

満足度を視聴者全体ではなく、F1・F2・F3と女性を年齢別に分析すると、さらに面白い事実が浮かび上がる。図3の通り、戦国時代の力と知略の物語にも関わらず、F1(女20~34歳)とF3(女50歳以上)の評価が回を追うごとに高まっている。同様に戦国が舞台だった『軍師官兵衛』では、女性の視聴者がついて来られなかった様子が見て取れる。女の子大河とも言うべき『花燃ゆ』に至っては、本来は女性視聴者をターゲットにしたのだろうが、どの層も思惑通りには見てくれていなかったようだ。今回の三谷大河が、如何に幅広い層に届いているかがわかる。

 

以上が序盤4回までの『真田丸』への筆者の評価だ。実際に自分の目で見た感覚が、データで裏付けられる時代になった点が従来と大きく異なる。視聴率の動向だけで拙速に批判せず、まずは自らの目を信じて、そして“見える化”が進む番組評価システムを援用しつつ、良い番組を心行くまで楽しみたいものである。ただし本日の第5回「窮地」で、視聴率や満足度が極端に下がると、ここまで評価してきた筆者の立場がにわかに窮地に追い詰められる。

NHKさんよ、ぜひ頑張ってくださいね。

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