80年代は“ドラマのTBS”。90年代は“トレンディドラマ”のフジテレビ。しかし今、ドラマの視聴率は日テレが最も安定している。実はその前提に、初回で安定した視聴率を叩き出す日テレならではの仕組みがある。その一端とは・・・・

今クールのドラマ初回では、TBS「下町ロケット」が最高視聴率!

今クールのドラマ初回では、TBS「下町ロケット」が最高視聴率!

連続ドラマは初回が決定的!

「TVドラマ再考(中)」では、2015年夏までの6クールの主なドラマ枠を局別に比較し、平均視聴率が日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビ、TBSの順になっていると述べた。ドラマの視聴率の高低を決めるのは、本の良し悪し、出演者の魅力、演出の力など要因はいろいろあるが、初回ドラマの視聴率もドラマ全体の平均視聴率に大きな影響を与える。ドラマは初回から見る人が大半で、途中から見る人は多くない。つまり初回を見てもらわないと始まらないのである。

事実、2015年夏までの6クールのGP帯ドラマで平均視聴率が初回を上回ったのは、フジ「恋仲」(15年夏)、テレ朝「ドクターX」(14年秋)、フジ「昼顔」(14年夏)、テレ朝「BORDER」(14年春)など10本のみ。いずれも独特の世界を描いた話題作だ。この間のドラマは80本ほどあるので、8割以上のドラマは初回の視聴率が最も高く、2回目以降数字を落として行く傾向にある。

 

日本テレビは初回が強い

図1 主なドラマ枠の初回視聴率 2015年秋までの7クールで見ると、初回視聴率が最も高かったドラマはフジ「HERO」(14年夏)の26.5%だった。2位はテレ朝の「ドクターX」(14年秋)で21.3%。これらのドラマは平均視聴率も「HERO」21.3%、「ドクターX」22.9%と極めて高い数字となった。さらに「HERO」を含むフジ月9枠の7ドラマの初回平均は15.2%、「ドクターX」のテレ朝木9枠は14.7%と、全ドラマ枠の1位2位を占めている(図1)。

ところが局の初回平均となると話が違ってくる。フジの4枠初回平均は11.5%、テレ朝は12.4%で、13.5%の日テレに大きく水を空けられているからだ。しかも同一枠を7クールで比べてみると、日テレ以外はクールによる差が大きい。例えばフジ月9では、「HERO」(14年夏)の26.5%に対して、今年夏クールの「恋仲」は9.8%と半分にも満たなかった。フジの火10枠に至っては、「銭の戦争」(15年冬)14.1%もあったが、「戦う!書店ガール」(15年春)6.2%や「HEAT」(15年夏)6.6%など、初回から極端に低いドラマが複数あった。

TBSも例外ではない。金10枠の「アリスの棘」(14年春)は14.2%と好調なスタートを切っていたが、「表参道高校合唱部!」(15年夏)は初回からいきなり6.6%、火10枠の「女はそれを許さない」(14年秋)も7.0%、「まっしろ」(15年冬)7.9%。今クールでも「結婚式の前の日に」が7.7%と初回から躓くケースが頻発している。テレ朝も木9枠は、「ドクターX」の21.3%があれば、14年春の「BORDER」と15年夏の「エイジハラスメント」はそれぞれ初回が一桁に終わっていた。

以上の3局に対して、日テレのドラマ初回の安定感は他を寄せ付けない。例えば水10枠は特に好調だった「花咲舞が黙ってない」(14年春)の初回17.2%を除くと、他6ドラマは13.6%から14.7%とわずか1.1%の中に全て入っていた。土9枠も唯一9.0%と一桁で始まった「学校のカイダン」(15年冬)を除くと、他6ドラマは12.4%から13.4%と1%の範囲に収まる。さらに今春から新設された日曜10時30分の枠も、第一弾となった「ワイルド・ヒーローズ」こそ9.0%と一桁に留まったが、以後「デスノート」16.9%、「エンジェル・ハート」12.5%と安定している。他3局と比べ、日テレのドラマ初回の強さは群を抜いているのである。

 

強さの前提に宣伝体制あり

 では日テレドラマの初回は何故かくも強いのか。前提には番組宣伝の充実がある。図2は今クールに放送されている9ドラマの、初回放送に向けて行われた番組宣伝の実績を示したものである。ピンクの棒グラフは初回放送前一週間に主人公を演じた役者が出演した番組数を示す。そのうち視聴率の高いGP帯に放送された番組数は赤の棒グラフ。そしてスポットやミニ番組などの本数が緑となる。図2 主なドラマ初回の番宣実績

例えばテレ朝「遺産争族」の主人公向井理は、初回放送直前一週間で9本の番組に出演したが、朝・昼・深夜の番組が中心で、GP帯のバラエティ番組への出演はゼロだった(ミニ番組やスポットは5本)。TBSが力を注ぐ日曜9時「下町ロケット」では、主人公の阿部寛は6本の番組に出演したが、GP帯は1本のみ(ミニ番組やスポットは8本)。フジの看板ドラマ月9「5→9」でも、主人公の石原さとみは8本の番組に出演し、うち4本がGP帯の放送(ミニ番組やスポットは8本)に留まった。

いっぽう日本テレビの番組宣伝は別格だ。例えば水曜10時の「偽装の夫婦」では、主人公の天海祐希は13本の番組に出演し、うち6本がGP帯だった。放送前はほぼ毎日夜のバラエティに登場していた格好だ。しかも日テレの場合、他局のバラエティより視聴率が高い。つまり本数が多く個別番組の視聴率が高いので、GRP換算にすると他局より露出度が桁違いになる。さらにミニ番組やスポットでの露出も11本と、今クールのドラマでは最多となっていた。ちなみに「偽装の夫婦」と“ドラマ・アラフォー対決”と呼ばれたフジ「オトナ女子」の篠原涼子は、出演番組2本、うちGP帯1本、スポットなど2本に留まった。初回視聴率は5%ほどの差がついたが、ドラマの内容以前に視聴者の認知度に大差がついていた可能性がある。

では何故、日テレではドラマのメインキャストがかくもバラエティ番組などに頻繁に出演できるのか。その鍵は同局の人事制度にある。同局では現在放送を統括している小杉善信専務を初め、多くのプロデューサーがバラエティからドラマへの異動を経験している。今クールの土曜9時「掟上今日子の備忘録」がドラマデビュー戦となった松本京子プロデューサーも、「世界の果てまでイッテQ!」などバラエティ番組をこの春まで担当していた。つまりキー局の中で、バラエティとドラマの関係が最も良い局と言えそうで、結果としてドラマの番宣を兼ねたバラエティの制作が普通に行われているのである。

筆者も昨春までテレビ局に身を置き、制作や編成の現場で仕事をしてきた。一般的にテレビ局のプロデューサーやディレクターは、自分の美意識や世界観で番組の全てをコントロールしたくなるものだ。他の番組への協力が大前提というやり方には、拒否感を持つ担当者も少なくない。一国一城の主になりたいのである。そんな現場の風潮にありながら、番組相互が送客し合うような連携・協力を日常的に徹底している日本テレビ。現在、視聴率や広告収入で独壇場となっているが、その強さの秘密がドラマ初回の強さにも表れているようだ。

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