「TVドラマ再考(上)」では、一見好調なスタートを切ったように見える秋クールも、実は右肩下がりのトレンドにあることを検証した。今回は視聴率という量的調査のみを使わず、満足度や録画数など質的領域にも踏み込むと何が見えて来るのかに挑んでみたい。

ドラマ視聴率の局別順位

2014年春から15年夏までの6クールの主なドラマ枠を局別に比較すると、平均視聴率は1位が日本テレビで11.83%(水10と土9の2枠:日曜10時30からの枠は15年春からのため除外)。2位はテレビ朝日で10.99%(木8と木9の2枠:水曜9時は2クールものがあるために除外)。3位フジテレビ9.68%(月9・火10・水10・木10の4枠)。4位TBS8.95%(火10・金10・日9の3枠:木9は15年秋から廃止のため除外)。ドラマの局別順位は、総じて編成表全体の順位と同じとなった。

ただし過去6クールでは、平均視聴率が突出して高かったドラマが2本あった。14年秋クールに放送されたテレ朝の「ドクターX」22.9%と、14年夏クールのフジ「HERO」21.3%だ。もし両局から2ドラマを除くと、平均視聴率はテレ朝9.91%、フジ9.17%、TBS8.95%で順位は変わらないものの、3局の差はぐっと縮まる。日テレの独走、残り3局のせめぎ合いという構図になる。

視聴率と録画数の関係

録画されることの多いドラマで比較すると、視聴率とは異なる風景が見える。録画再生視聴率については、ビデオリサーチ社が14年春から関東300世帯を対象に調べているが、残念ながら公表していないので、本稿では「テレビウォッチャー」を提供しているデータニュース社のデータを使用する。関東3000人の地上波テレビの視聴と、全国3000人のBS視聴の実態を調べている。視聴度合・録画状況・番組満足度・自由記述による感想などを毎日収集している調査会社だ。

まず3000人の視聴者のうち、何人がそのドラマを録画したかで見ると、該当期間中に多く録画されたドラマの上位15位は以下の通りとなった(人数の分母は3000人の調査パネル)。

1位:フジテレビ「HERO」・・・・・・・・・・・・・259人

2位:TBS「ルーズヴェルト・ゲーム」・・・・・・・・214人

3位:日本テレビ「きょうは会社休みます。」・・・・・・ 206人

4位:テレビ朝日「ドクターX」・・・・・・・・・・・・205人

5位:テレビ朝日「アイムホーム」・・・・・・・・・・・205人

6位:フジテレビ「信長協奏曲」・・・・・・・・・・・・193人

7位:TBS「流星ワゴン」・・・・・・・・・・・・・・193人

8位:TBS「Nのために」・・・・・・・・・・・・・・191人

9位:TBS「ウロボロス~この愛こそ、正義。」・・・・ 184人

10位:日本テレビ「○○妻」・・・・・・・・・・・・・・183人

11位:フジテレビ「ようこそ、わが家へ」・・・・・・・・181人

12位:日本テレビ「Dr.倫太郎」・・・・・・・・・・・ 178人

13位:日本テレビ「花咲舞が黙ってない」(15年夏)・・・175人

14位:TBS「アリスの棘」・・・・・・・・・・・・・・174人

15位:フジテレビ「デート~恋とはどんなものかしら~」・166人

如何だろうか。上位はいずれも話題作、問題作が並ぶ。録画数の多いドラマは、名作、傑作、力作など、評価の高いドラマが多いと思われる。「じっくり見たい」「保存しておきたい」など、視聴者の熱い思いを反映していると考えられているからである。

では次に、平均視聴率1%あたりの録画数でランキングしてみよう。一般には視聴率が高いと録画再生が多いと言われるが、1%あたり録画数は単純な録画数とは大きく異なる結果となった。

1位:フジテレビ「リスクの神様」・・・・・・・・・・・25人

2位:TBS「Nのために」・・・・・・・・・・・・・・21人

3位:TBS「家族狩り」・・・・・・・・・・・・・・・20人

4位:TBS「流星ワゴン」・・・・・・・・・・・・・・19人

5位:TBS「ごめんね青春!」・・・・・・・・・・・・18人

6位:フジテレビ「探偵の探偵」・・・・・・・・・・・・18人

7位:TBS「アルジャーノンに花束を」・・・・・・・・18人

8位:フジテレビ「ファーストクラス」・・・・・・・・・18人

9位:TBS「ウロボロス~この愛こそ、正義。」・・・・ 18人

10位:フジテレビ「SMOKING GUN」・・・・・・ 17人

11位:TBS「まっしろ」・・・・・・・・・・・・・・・17人

12位:フジテレビ「若者たち2014」・・・・・・・・・・ 17人

13位:TBS「マザー・ゲーム~彼女たちの階級~」・・・17人

14位:フジテレビ「残念な夫。」・・・・・・・・・・・・ 16人

15位:フジテレビ「心がポキッとね」・・・・・・・・・・15人

フジ「リスクの神様」が断トツの一位となった。平均視聴率は5.1%と低迷したが、ビジネスマンなど一部の人々には強いニーズがあり続けたドラマだったと言えよう。

ところで視聴率1%あたり録画数の上位には、強烈な特徴がある。まず上位15位中13本が視聴率一桁となっていること。二桁となった2本も、かろうじて10%台と必ずしも好成績ではなかった。次に上位15本はすべてTBSとフジテレビで占められていること。さらに上位はTBSの占める割合が高く、しかもベスト10のうちの4本は金曜10時枠が占めている。TVドラマとして娯楽性を重視するより、意欲作・問題作など挑戦的な作品が多いことが分かる。

テレビ局と録画数の関係

過去6クールのドラマ局別平均視聴率が、1位日本テレビ・2位テレビ朝日・3位フジテレビ・4位TBSとなったことは既に述べた。では視聴率1%あたりの局別平均録画数をみると、1位TBS15.56人・2位フジテレビ14.29人・3位日本テレビ11.13人・4位テレビ朝日10.02人と、視聴率順位とはほぼ逆の関係になった。この順位は、視聴率の割に録画されることの多いドラマを多く作る局の順位と言える(図1参照)。

図1 視聴率と録画数の関係 1位TBS・2位フジと、3位日テレ・4位テレ朝との間には大きな開きがある。まず考えられるのは、テレ朝のドラマは中高年の視聴者が多く、録画再生する習慣の乏しい層が対象となっていると考えられる。例えば1%あたり録画数のワースト3は、1位「刑事110キロ」5.1人・2位「科捜研の女」5.8人・3位「京都人情捜査ファイル」7.4人とすべてテレ朝のドラマだ。ベスト3と比べると、3~4倍の差がある。明らかに年齢層の高い視聴者をターゲットにしているがゆえの結果と言えよう。

局別の平均でTBSやフジに3~4人以上離されて3位の日テレの場合は、必ずしも中高年狙いのドラマではない。水曜10時はF2(女35~49歳)を中心にした女性向けドラマだ。そして土曜9時は、ティーンとその親の随伴視聴を意識したドラマが多い。ではなぜ録画数がTBSやフジほど多くないのか。実は娯楽性重視の姿勢が鍵だ。例えば原作者と銀行という舞台がTBS「半沢直樹」と同じ「花咲舞が黙ってない」(14年春と15年夏クール放送)は、それぞれ1%あたり録画数が10.2人と12.1人と決して高くない。制作時にシリアスな部分を抑え、滑稽なシーンを増やす演出で、敢えて気楽に見られる番組にすることで録画再生に回されないように努めていたという。「花咲舞が黙ってない」は、いずれもクール内1位をとっているように、視聴率重視の作戦はピタリと当っていたと言えよう。

視聴率・録画数・満足度の関係

では次に、番組を視聴した人の満足度を見てみよう。「テレビウォッチャー」では、自発的に番組を視聴した人の満足度を5段階評価で投票してもらっている。該当期間中に満足度の平均値が高かったドラマの上位15番組は以下の通り。( )内は平均視聴率。【 】内は録画総数。< >内は視聴率1%あたり録画数。

1位:TBS「天皇の料理番」・・・・・・・・・・・・・4.15(14.5%)【157人】<10.8人>

2位:日本テレビ「きょうは会社休みます。」・・・・・・ 4.07(16.0%)【206人】<12.9人>

3位:テレビ朝日「ドクターX」・・・・・・・・・・・・4.06(22.9%)【205人】< 9.0人>

4位:フジテレビ「銭の戦争」・・・・・・・・・・・・・4.03(13.4%)【171人】<12.8人>

5位:TBS「Nのために」・・・・・・・・・・・・・・4.02( 9.0%)【191人】<21.2人>

6位:フジテレビ「続・最後から二番目の恋」・・・・・・4.00(12.9%)【163人】<12.6人>

7位:日本テレビ「花咲舞が黙ってない」(15年夏)・・・ 4.00(14.5%)【175人】<10.2人>

8位:日本テレビ「花咲舞が黙ってない」(14年春)・・・ 3.98(16.0%)【164人】<12.1人>

9位:TBS「ルーズヴェルト・ゲーム」・・・・・・・・3.96(14.5%)【214人】<14.8人>

10位:TBS「ウロボロス~この愛こそ、正義。」・・・・ 3.92(10.4%)【184人】<17.7人>

11位:TBS「流星ワゴン」・・・・・・・・・・・・・・3.91(10.3%)【193人】<18.7人>

12位:フジテレビ「信長協奏曲」・・・・・・・・・・・・3.89(12.5%)【193人】<15.5人>

13位:フジテレビ「HERO」・・・・・・・・・・・・・3.89(21.3%)【259人】<12.1人>

14位:フジテレビ「素敵な選TAXI」・・・・・・・・・3.89(10.3%)【134人】<13.0人>

15位:TBS「アリスの棘」・・・・・・・・・・・・・・3.88(11.1%)【174人】<15.7人>

以上のデータから、こんな傾向を導き出してみた。まず視聴率・満足度・録画数のいずれも高いドラマは、視聴者層の間口が広く、個々の視聴者の心にしっかり届いていたホームランだった可能性が高い。テレ朝「ドクターX」を筆頭に、フジ「HERO」、日テレ「きょうは会社休みます。」「花咲舞が黙ってない」、TBS「ルーズヴェルト・ゲーム」等が該当する。

次に視聴率・満足度・録画数のいずれも一定程度高かったドラマは二塁打。満足度がブッチギリでトップだったTBS「天皇の料理番」を初め、フジ「銭の戦争」「続・最後から二番目の恋」「信長協奏曲」あたりがこの範疇に相当する。

図2 視聴率と満足度の関係

図2 視聴率と満足度の関係

最後に視聴率は高くなかったが、満足度が高く録画数が多いドラマもあった。シングルヒットと位置付けたい作品だが、「アリスの棘」「流星ワゴン」「流星ワゴン」「Nのために」と実はすべてTBSのドラマ。視聴率の高い番組が録画再生も多いというのが一般論だったが、TBSのドラマについては明らかにこれが当てはまらない。しかも4本中3本は金曜10時枠という特徴がある。

「満足度が高い=番組への評価が高い」に加え、「録画再生が多い=確実にじっくり見たい」ということだろうが、残念ながら視聴率が高くないということは視聴者層の間口が広くないということだろう。狭く深く刺さるドラマとも言える。かつて“ドラマのTBS”と言われたほど、同局のドラマには伝統がある。しかし良いドラマを制作しながら「視聴率につながっていない=マネタイズできていない」とすれば、これは編成や経営にも責任の一端がありそうだ。当シリーズ最終回となる次号では、この辺りの問題を深掘りしてみたい。

 

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