偉大さとは、方向を与2015年 キー5局はどこへえること

今週多くの企業ではトップが社員を集め、新年のあいさつを行った。TV局などメディア企業も例外ではない。ニーチェ曰く「偉大さとは、方向を与えることだ。どんな河も自分自身によって大きく豊かなのではなく、多くの支流を受け入れて進むことによってそうなるのである。あらゆる偉大なる精神についても同じことがいえる。肝心なのは、のちに多くの支流が辿ることになる方向を示すことである」。組織の長たる者の年頭のあいさつは、方向性を示すという意味で一聴に値するケースが多い。TV局リーダーの言葉も、今週の新聞・業界誌・各局ホームページに多数紹介されたが、その中から各局の状況と重ね合わせると含蓄の深い言葉を拾い集めてみた。

まずは2014年に3年ぶりに三冠王に返り咲いた日本テレビの大久保好男社長。2014年の年間世帯視聴率(13年12月30日~13年12月28日)で、3年ぶりに三冠王に返り咲いたことについては、HP上の「年頭のご挨拶」で「多くの視聴者の皆様に当社の番組を支持していただき、心より感謝申し上げます」と型どおり。ところが局内の新年式典では、視聴率の勢いに乗り「通期放送収入総額もトップを」と檄を飛ばした。

実は同局は、94年から10年連続三冠王だったにも関わらず、当時は広告収入でフジテレビに遅れをとり続けた。そこで世帯視聴率だけではなく、10代と随伴視聴する40代前後の層を狙う番組を開発し、広告単価を上げる努力をしてきた。14年度はようやく、その悲願が達成する可能性が出て来ていたのである。

同時に大久保社長は、「好調な今が衰退の始まり」と、慢心を諌めることも忘れなかった。「現状維持は衰退の一歩」「得意な時こそ謙虚に新しい目標に挑戦して欲しい」「生き残りには時代の流れに適応して自らを変え進化していくこと」「イノベーションは自己否定から始まる」「“打倒日テレ”だ」。一昨年に開局60年を迎えた同局は、「日テレは、もう一度、テレビをゼロから」と宣言していたが、この間の方向性は一貫していると言えよう。これらの言葉の通り、社内の多くの支流が本流に合流すれば、同局にはしばらく死角がない。

捲土重来に向かう言葉

12~13年と日テレと激しく首位争いを演じたテレビ朝日の早河洋会長兼CEOは、社内およびグループ向けの挨拶をHPに掲載した。同局の視聴率は14年春と夏に失速し、首位日テレに大きく水を開けられる原因となったが、秋改編以降やや持ち直した。早河会長も「10月クールと年末年始の奮闘で復調のきっかけをつかんだ」とまずは前向きな姿勢を示した。ただし今の実力ではまだ不十分で、「視聴率トップ争いへのヒントは、私達が創り上げてきた最近のヒットコンテンツの中にある」と5例を挙げた。

筆頭は昨年夏に公開して83億円の大ヒットとなった出資映画「STAND BY ME ドラえもん」。VFXの専門家と組み「3DCGという今日的な新しい表現方法に挑戦」したことが勝因と分析。「才能あふれる創造的なパートナーとの新たな協業が不可欠」とした。

次が15年間で240話近くが放送され、全平均視聴率16%台を記録している「相棒」。長く視聴率を落とさず、評価され続ける要因として、俳優・シナリオライター・制作スタッフによる「ものづくりネットワーク」が重要と強調した。

3つ目が第3弾全11話平均22.9%という驚異的な視聴率をたたき出した「ドクターX~外科医・大門未知子~」。主演の米倉涼子・彼女と長く仕事をしてきた内山プロデューサー・シナリオライター中園ミホの3人の女性の和が大きかったという。以上3例から、「ヒットコンテンツを生み出すには一定の時間がかかる」「経営トップから現場の人間までの一体感が必要」と総括した。

4点目はスポーツ。「世界水泳」「サッカーAFCアジアカップ」「フィギュアスケートなど、同局は今世紀に入って「放送権獲得にかなりの経営資源を投下」してきた。「迅速な作戦が奏功した」と、ここは自画自賛。

そして最後がバラエティだが、「この10年、テレビ朝日を元気にしたバラエティ番組がここにきて元気をうしなっています」と、弱体化を認める所から入った。しかし反転攻勢の兆しも出て来ており、「スタッフは成功体験を思い起こし、ヒット番組、ヒットコンテンツを創り出す反発力を必ずや示してくれるものと確信」と奮起を促した。

首位争いから脱落し始めた瞬間に、三冠王直前まで駆け上がった直近10年を振り返り、「俳優・タレントおよび所属事務所との信頼関係」「ものづくりネットワーク」「権利ホルダーとの友好関係」「時間と予算をかけた中・長期戦略」「失敗のリスクを恐れない継続と挑戦」と、5つの重要ポイントを改めて言語化した。職員の再起を促すには、具体的かつ的確な言葉だったと言えよう。

やや対照的だったのが、14年の視聴率がG帯・P帯・全日のいずれもキー5局の中で3位に終わったフジテレビ。長期的にみると06年頃から率が徐々に下がり始め、改革に乗り出したにも関わらず、12年以降に逆に下落速度が速まっていた。さらに年始週(14年12月29日~15年1月4日)では、視聴率調査開始以来初のGP帯最下位を喫してしまった。新年全体会議に臨んだ亀山千広社長は、「今年は視聴率の話は止めよう思っていたが、この結果を見たらせざるを得ない」と急遽方針を変えた状況を業界紙は伝えている。

「視聴者の心が捉えきれていないことが全て」とまずは全否定から入った。その上で「最近よく『社長の考えがよく分からない』という声が聞かれる。逆に私は『あなた達は会社をどうしたいのか?』と聞きたい」と、テレ朝早河会長が指摘した「経営トップから現場の人間までの一体感」が失われている現実を露呈する話となった。亀山社長も年末年始のタイムテーブルを見た際に疑問があったようだが、発言を控えたらしい。「意見を言うことから逃げていた」「社長であろうと意見を言うべきだった」「その代わり私にも意見を行って欲しい」と続けたのである。いまだ混迷の渦中と言わざるを得ないが、今後どう巻き返しを図るのか。「フジに元気がないと困る」という声を、他局幹部からはよく耳にするが、業界全体の活気を増すためにも、同局の捲土重来を期待したいものだ。

下位2局の明暗

フジと同じように、視聴率低迷で苦しんでいるのはTBSだ。06~09年に大きく数字を落とし、以降は低迷のまま横ばい状態が続いていた。ところが14年はさらなる下落が始まった印象だ。G帯・P帯・全日のいずれも、前年比で0.5ポイント前後も成績を落としている。その1年が改まった年頭の石原俊爾社長あいさつは、テレ朝と同じ様に、HPに掲載された。ただしテレ朝早河会長と違い、具体的な対応策が示されることはなかった。

2015年を「戦後70年、TBS60年という節目の年」とした上で、「私たち報道機関が『何を、どう伝えて行くのか』、今年は、その責任、使命が今まで以上に問われる年」と断じた。節目だからそうなのか、もう少し説明を聞きたいところだが根拠はない。また、「コンテンツの強化が喫緊の課題であることは言うまでもありません」としながらも、具体的な対策は示されなかった。週前半のバラエティ番組はやや回復しているとし、「これでドラマが安定してくれば、いい勝負ができる状況に来ていると思います。もうひと踏ん張りです、頑張っていきましょう」と檄を飛ばすに留まった。支流たる各職員を一つの方向に向かせるためには、もっと強力な求心力が求められる。

いっぽう視聴率の絶対値こそキー5局中最も低く万年5位のテレビ東京だが、島田昌幸HD社長の新年祝賀会での挨拶には含蓄があった。開局50周年にあたる2014年の取組に手応えがあり局の評価が上昇していると評価し、16年の社屋移転と統合マスター運用開始に向け15年が重要な年と位置付け、重要課題を具体的に3点挙げた。「HD組織の見直しと機能強化」「映像技術の革新・配信の高度化にグループをあげて取り組む」「技術革新・新ビジネス開発の投資を賄う利益を出せる経営体質の構築」だ。干支の「未」はくだものが熟し切っていない状態を示すという薀蓄を示し、「発展途上の我々にはぴったりの年。『あの年こそクループの跳躍台になった年だった』と言える年にしたい」と締めくくった。

実はテレ東は、08~11年に視聴率を落としていた。ところが12年以降じわじわ数字を上げ、14年も前年比で全日・G帯・P帯はいずれも0.3ポイント上乗せした。その意味で島田社長の「局の評価が上昇している」は頷ける。しかも12~14年の上昇気流を、新技術・新サービスで確固たるものにするという方向性は、職員にとって納得性の高いスピーチと言えよう。

以上がキー5局のリーダーたちの新年の挨拶だ。テレビ局は表現者集団であり、そのトップは表現について一定の見識を持ち、かつ高い経営手腕が求められる。そんな彼らの1年最初の言葉が、各表現者(支流)にどう受け入れられ、実際に組織を活性化させ(本流へと束ね)、視聴率や広告収入などの実績に如何に結び付くのか(偉大な本流になるのか)。サッカー試合後の各プレイヤーの採点表のように、彼らの方向性がどの程度的確だったのか、1年後に評価してみたいものである。各局のこの1年の奮闘を注視したい。

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